公募研究班(平成27年度)

安井 隆雄

27年度の実施計画

平成27年度は、セミの翅の表面構造の物理的防御機構を解明するために、新規ナノデバイスの試作・検討を進める。セミの翅の物理的防御機構を解明するための新規ナノデバイスのナノ構造体には、これまで開発してきた様々なナノ構造体を使用する。しかし、これらナノ構造体においては計測対象に応じた構造体の作製を行ってきたため、作製されたナノ構造体が体系化されていない。そのため、ナノ構造体と細胞破砕メカニズムを体系的に理解することが困難である。そこで本年度は、(1)ナノ構造体の直径・長さ・アスペクト比・間隔・配置パターンの物理的要因と、(2)ナノ構造体の材料・表面特性・表面への官能基付与の化学的要因を体系的に解明することを目的とする。(1)の課題においては、これまでに開発したナノ構造体を規則正しく配置したパターンや乱雑に配置したパターン、乱雑なナノ構造体群をアレイ状に規則正しく配置したパターンに加え、ナノ構造体の直径・長さ・アスペクト比・間隔の物理的要因が破砕に及ぼす影響を検討する。(2)の課題においては、これまでに開発した様々な材料でできたナノ構造体の細胞破砕への影響を始めとして、親水性・疎水性ナノ構造体等の表面特性の細胞破砕への影響、ナノ構造体に付与した官能基の細胞破砕への影響を検討する。最終的には、細胞破砕に対する物理的要因と化学的要因を体系化することで、セミの翅の表面構造の物理的防御機構の解明を行う。

27年度の実施報告

初年度は、セミの翅の表面構造の物理的防御機構を解明するために、新規ナノデバイスの試作・検討を進めた。

セミの翅の物理的防御機構を解明するための新規ナノデバイスのナノ構造体には、ナノピラー構造体やナノワイヤ構造体、ナノウォール構造体等を試作した。これら構造体からナノワイヤ構造体が作製の容易さや、作製可能構造体の範囲の広さより適していることが明らかとなった。ナノワイヤ構造体と細胞膜破砕のメカニズムを体系的に理解するために、(1)ナノワイヤ構造体の直径・長さ・アスペクト比・間隔(ナノワイヤ疎密)・配置パターンの物理的要因と、(2)ナノワイヤ構造体の材料(ZnO/Al2O3/SiO2/SnO2)・表面特性(親水性・疎水性)・表面への官能基付与の化学的要因が異なるナノワイヤ構造体の作製に着手した。

(1)の課題においては、ナノワイヤ構造体を規則正しく配置したパターンや乱雑に配置したパターン、乱雑なナノワイヤ構造体群をアレイ状に規則正しく配置したパターン等のパターンが異なるワイヤを作製した。また、作製時のシード層のメタルを変更することで、ナノワイヤの直径・長さ・アスペクト比・配向性が異なる構造体も作製に成功した。(2)の課題においては、作製したナノワイヤ構造体にコアーシェル構造となるように、様々な酸化物(ZnO/SnO2/SiO2/Al2O3)を付与することで材料・表面特性が異なるナノワイヤの作製に成功した。表面への官能基付与は、ペプチド修飾によって作製に成功した。

28年度の実施計画

平成28年度は、セミの翅の物理的防御機構を有する新規ナノデバイスの創製を行う。開発するナノデバイスは、バスの手すり等の公共の場所での使用を想定しているため、新規ナノデバイスの基板素材には、粘着性を有する素材であるシリコーンゴムのポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いる。申請者は既に、PDMS上へナノワイヤ構造体を成長させる技術を開発してきた。しかし、本デバイスでは、ナノワイヤ構造体がPDMS上にのっている状態であり、繰り返しの使用や長期間の使用には耐えることができない。
そこで本年度では、ナノワイヤ構造体をPDMSに埋め込むことで、ナノワイヤとPDMSの接合力を増加させ、繰り返しの使用や長期間の使用に耐えるナノデバイスを開発することを目的とする。この埋め込み型ナノワイヤ構造体は、シリコンやガラス基板等に作製したナノワイヤ構造体にPDMSを流し込み、PDMSを剥離することで、PDMSにナノワイヤを埋め込み、そこからナノワイヤ構造体を成長させることで作製する。申請者は予備研究成果として、乱雑な配置パターンのナノワイヤ構造体を上述の手法にて、PDMSに埋め込むことに成功している。本研究課題では、前年度に体系化したナノワイヤ構造体の物理的・化学的パラメータを基に、セミの翅の物理的防御機構を模倣する組み合わせのナノワイヤ構造体をPDMSに埋め込み、薄いシート状のデバイスを作製することを達成する。
このデバイスを用いて、細菌破砕の処理能力、時間、正確性などを検討し、性能評価を行う。その際には、細菌の膜の硬さを1つのパラメータとして扱う。細菌の膜の硬さは細菌にマイクロ波を照射することで評価し、どの組み合わせのナノワイヤがどの程度の硬さの細菌に有効であるかを体系化する。また、細菌の大きさももう1つのパラメータとして扱う。最終的には、ナノワイヤ構造体の物理的・化学的パラメータ、細菌の膜の硬さ・大きさのパラメータを体系化し、狙った細菌のみを破砕することが可能な接着性シート状ナノデバイスの創製を行う。

28年度の実施報告

本年度は、セミの翅の物理的防御機構を有する新規ナノデバイスの創製を行った。開発したナノデバイスの基板素材には、粘着性を有する素材であるシリコーンゴムのポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いた。これは、将来的なバスの手すり等の公共の場所での使用を想定しているためである。研究代表者はこれまでの研究成果において、PDMS上へナノワイヤ構造体を成長させる技術を開発してきた。
しかし、この技術は、ナノワイヤ構造体がPDMS上にのっている状態であり、繰り返しの使用や長期間の使用には耐えることができない。そこで、本研究課題においては、ナノワイヤ構造体をPDMSに埋め込み、ナノワイヤとPDMSの接合力を増加させ、繰り返しの使用や長期間の使用に耐えるナノデバイスを開発することを達成した。このPDMS埋め込み型ナノワイヤ構造体は、シリコン基板に作製したナノワイヤ構造体にPDMSを流し込み、PDMSを剥離することで、PDMSにナノワイヤを埋め込み、そこからナノワイヤ構造体を成長させることで作製した。乱雑な配置パターンのナノワイヤ構造体を上述の手法にて、PDMSに埋め込むことに成功した。前年度に体系化したナノワイヤ構造体の物理的・化学的パラメータを基に、セミの翅の物理的防御機構を模倣する組み合わせのナノワイヤ構造体を薄いシート状のデバイスを作製し、細菌破砕能力の性能評価を行った。細菌破砕能力の性能評価には、ISO規格則ったJIS規格の手法を用いた。細菌の膜の硬さを1つのパラメータとして扱うため、グラム陽性菌、グラム陰性菌、そして酵母を用いた実験を行い、ナノワイヤがどの程度の硬さの細菌に有効であるかを体系化した。ナノワイヤ構造体の表面材料や、構造体の配置パターン、直径と細菌の膜の硬さ・大きさのパラメータを体系化し、狙った細菌のみを破砕することが可能なナノデバイスの作製を行なった。

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