公募研究班(平成27年度)

室崎 喬之

27年度の実施計画

(1)マイクロリンクルのサイズとフジツボキプリス幼生の着生の関係

マイクロリンクルの周期、高さ等のサイズがフジツボ付着期幼生(キプリス幼生)に対して与える影響について調べる。これまでに、いつくかの表面微細構造が藻類やフジツボキプリス幼生の着生に対し着生忌避効果を有することが報告されてきている。特にこれまでのキプリス幼生の動態解析による研究から、キプリス幼生の探索行動を阻害する事が防汚性に非常に重要である事がわかってきている。マイクロリンクル表面では探索時のキプリス幼生の感覚器官とマイクロリンクル界面での摩擦力が変化する事による防汚効果を期待できる

(2)多様な表面材質のマイクロリンクルの作製

マイクロリンクル表面の薄膜に様々なプラスチックや金属の導入を試みる。フジツボの接着タンパク質は数種類の接着タンパク質から成り、そのバルクな部分は疎水性であると考えられている。よって親水性の材料表面では分泌されたフジツボの接着タンパク質が濡れづらい事が予想される。またハイドロゲルやシリコーンゴムを用いた付着実験結果より、基板の硬さは増すほど付着は増大する傾向にある事が示されている。本課題では、表面エネルギーの異なる多様な高分子を導入、または蒸着、スピンコート等の手法により表面に多様な金属を導入する。その後これらの表面にてフジツボキプリス幼生の付着実験を行い、防汚効果を評価する

27年度の実施報告

フジツボに代表される付着生物は船舶や取水路などの海中構造物に対し深刻な汚損被害をもたらしている。既存の防汚技術の多くは毒性による殺生作用によるものか バブルや音波を発生させるといったエネルギー消費型のものである。本研究では低毒性・低エネルギー消費型の新規防汚技術の開発を目指す。

これまでに申請者はフジツボをモデル付着生物に用いソフトマター等を用いた防汚材料の研究を行ってきた。また最近は自己組織化的プロセスにより作製される表面微細構造が付着生物に示す抗付着メカニズムを見出してきている。本研究では生物表面に見られる動的な凹凸構造に着目し、動的マイクロリンクル構造上での付着生物の付着挙動を詳細に調べ、環境負荷の少ない新規防技術の創出を試みる。

本年度はフジツボの付着期幼生を用いたマイクロリンクル構造上での付着実験系の構築を行い、また水中での付着実験に耐えうるマイクロリンクルサンプルの開発を行った。さらに実際の生物表面の微細凹凸構造上としてサメ肌レプリカサンプルを作製し、その表面での付着実験を行った。また材料設計の指針を得る為にフジツボ付着期幼生の微細構造について電子顕微鏡による観察と検討を行った。

28年度の実施計画

(1)マイクロリンクル表面への階層構造の導入
これまでの研究より、自己組織化により形成される表面微細構造ハニカムフィルムをベースに二次加工する事で、様々な表面微細構造を作成できる事がこれまでにわかっている。 これらの表面微細構造フィルムをマイクロリンクル表面の薄膜に用いる事によって、マイクロリンクルに階層構造を導入し、それらの表面での付着実験を行い、防汚効果を評価する。

(2)マイクロリンクルによるフジツボの剥離
まず始めに歪みを加える前(もしくは後)にフジツボキプリス幼生を着生させる。その後、歪みを加え(もしくはリリースし)付着したフジツボ成体の剥離率を調べる。その際にマイクロリンクルの周期等サイズと剥離率の関係性についても調べる。

28年度の実施報告

本研究の目的は生物の動的表面微細構造に着目し低環境負荷型の新規防汚技術を開発する事である。水中におけるマイクロリンクル表面でのフジツボ付着期幼生を用いた付着実験を行った。その結果、マイクロリンクルを発生させる為の硬い表面(ポリイミド膜)の厚みが小さいほど付着数が減少する傾向が見られた。これはポリイミド膜が薄い場合には、下地のシリコーンラバーの柔らかさが影響した為に着生が忌避された為と推察される。また付着後のフジツボ幼稚体に対してマイクロリンクルを発生させた。その結果、幼稚体の接着面はマイクロリンクルに追従しマクロな剥離は見られなかった。幼稚体の剥離には圧縮よりも引張による変形が有効である事が推察される。実際の生物表面は微細構造がある上に柔らかい。表面の弾性的・幾何的特徴の変化と付着生物の付着挙動の関係調べる為、弾性率の異なるポリブタジエンを用いて作製した表面微細構造上にてフジツボ付着期幼生を用いた付着実験を行った。その結果いずれの微細構造においても弾性率の低下に従い付着数は減少した。またハニカム状多孔質表面微細構造の場合には、20マイクロメートル付近のサイズを境に付着が大幅に減少する傾向がある事がわかった。さらに付着生物のサイズ効果を確かめる為、フジツボ付着期幼生より一桁サイズが小さい付着珪藻を用いた付着実験をいくつかの表面微細構造上にて行った。その結果、長期間(1ヶ月以上)ピラー状の構造表面において培養した場合、ピラー間の間隔が狭いほど付着数は減少し粘液量も減少する傾向にある事がわかった。

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