公募研究班(平成27年度)

山本 拓矢

27年度の実施計画

まず、これまでに確立した合成法に対し新たな精製法を適用し、高純度の環状および対応する直鎖状ブロック共重合体を準備する。次に、これらを用いてベシクルの構築を検討する。このように作製された環状高分子ベシクルは、二分子膜が球状に閉じた構造を持ち、細胞膜構造の理想的なモデルになると考えられる。これらの環状および対応する直鎖状高分子ベシクルの基礎物性(粒径・会合数など)に加えて、耐熱性・耐塩性を調査する。さらに、二分子膜中にプローブ分子を導入することで、膜の安定性に対する効果および膜分子の交換速度や流動性を調査する。このようにして、好熱菌細胞膜の耐熱メカニズムの解明を行う。また、ベシクル内部にゲスト分子を導入することで、ドラッグデリバリーシステムの薬物担体の開発を目指した研究を行う。

27年度の実施報告

好熱菌と呼ばれる単細胞生物は、細胞膜に環状の脂質分子を有することで海底火山や温泉など70 °C以上の環境で生息できる。本研究は、この環状脂質分子を摸倣した合成高分子に自己組織化を誘導し、形成した好熱菌細胞膜モデルを利用して高安定性獲得のメカニズムの解明を行い、その応用を探求するものである。

これまでに申請者は、環状高分子から成るミセルが、対応する直鎖状高分子ミセルよりも構造安定性が遙かに優れていることを見出した。本提案では、合成高分子を利用し好熱菌細胞膜の単純化モデル(ベシクル)を構築する。それを利用し、生体という複雑系を用いた実験では困難な環状構造が熱安定性へ寄与するメカニズムを解き明かす。さらに、そのメカニズムと実験を通して得られる種々の知見に基づき、環状高分子が形成する自己組織化構造を新奇高分子機能材料の開発へと展開する。これは、今までにない高分子トポロジーと自己組織化の融合という新しいコンセプトを材料設計に導入するものである。すなわち、本研究は生命科学、高分子科学、超分子化学の複合による学際的分野の設立を目指し、新奇機能材料の創出へつなげるものである。

本年度の実績として、環状ブロック共重合体の自己組織化によりベシクルの構築を達成した。二分子膜が球状に閉じた構造であるベシクルは、単細胞生物である好熱菌の細胞膜構造の理想的なモデルと考えられる。つまり、直鎖状PS-PEO-PSおよびその環状化したものを合成し、自己組織化を行ったところ、直鎖状および高分子より選択的ベシクル構造の形成を確認した。さらに、温度応答性の実験を行った。

28年度の実施計画

様々な環状ブロック共重合体の自己組織化によりベシクルの構築を目指す。二分子膜が球状に閉じた構造であるベシクルは、単細胞生物である好熱菌の細胞膜構造の理想的なモデルと考えられる。これまでに直鎖状PS-PEO-PSおよびその環状化したものを合成し、自己組織化を行ったところ、ベシクル構造の形成を確認した。今後、セグメントを変化させた環状高分子を用いて選択的なベシクルの構築を目指す。さらに、そのベシクルのNMR緩和時間測定および水和状態の調査を行い、環状脂質分子が好熱菌細胞に付与する熱安定性の秘密を解明する。

28年度の実施報告

本研究は、好熱菌と呼ばれる単細胞生物の細胞膜に存在する環状脂質分子を摸倣した合成高分子に自己組織化を誘導し、形成した好熱菌細胞膜モデルを利用して高安定性獲得のメカニズムの解明を行い、その応用を探求するものである。本年度の実績として、昨年度までに作製に成功したベシクルの詳細な構造解析を行い、さらにそのベシクル水溶液をNaCl、HClまたはNaOH存在下、および様々な温度条件下において、光散乱測定および水溶液の光透過性によりベシクルの熱安定性を評価した。加えて、フルオレセインナトリウム塩やローダミン6Gの存在がどの様に構造安定性に影響を与えるかについて評価を行った。
静的光散乱測定から求めた会合体の分子量から、いずれも中空構造が示唆され、環状高分子から得られたベシクルの会合数が直鎖状高分子のベシクルよりもやや大きいことから、環状高分子はより密な自己組織化構造体を形成していることが示唆された。この結果は、環状高分子から成るミセルが直鎖状高分子から成るミセルと比較して、より密な構造を形成することと合致している。直鎖状および環状ブロック共重合体から得られたベシクルの熱安定性を動的光散乱測定により評価したところ両ベシクルは、純水中ではいずれも80°Cを超える耐熱性を示す一方、NaClを添加すると、有意に熱安定性が変化した。また、フルオレセインナトリウム塩やローダミン6G、および酸塩基の影響も確認された。これらの結果より、ベシクルに対する高分子トポロジーとゲスト分子および周囲の環境に関する知見が得られた。

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