津守 不二夫
27年度の実施計画
本研究では磁性粒子を分散させたシリコーンゴム材料を用い構造を作製する.特徴としては,外部磁場による変形挙動を変化させるために構造内部で磁性粒子を鎖状に配向させた構造を作製することである.これにより,同一外部磁場のもとにおいても,変形挙動を変化させることができる.このような異なる異方性を持つ繊毛を多数配置した人工繊毛表面を構築し,メタクロナール波を実現する.
予備実験の段階において,同一外部磁場のもとで異なる挙動を行う数mm程度の長さの個々の繊毛を作製できることは確認している.平成27年度には1mm程度の高さの繊毛群を作る.まずは,1次元的に配列した繊毛アレイを構築し,メタクロナール波を発現することを狙う.同時に,この繊毛を液中で駆動させて送液性能を評価する.送液性能の評価にはIV(Particle
Imaging Velocimetry)を用い,繊毛付近での流れまで可視化したい.
27年度の実施報告
磁性粒子分散シリコーンゴム材料を用い,ミリメートルレベルの繊毛群構造の作製に成功した.ひとつひとつの繊毛が異なる位相で駆動する5×10の配列を作製し,駆動・送液実験を行った.以下に詳細を述べる.
まず,硬化前のシリコーン樹脂中シートに磁場を印加することにより,磁性粒子を配向させた.この磁場配向を変化させたものを複数用意することで,繊毛アレイの一本一本に磁気異方性を持たせることができる.得られたシートを重ね合わせ,精密ステージ上で決まった幅に切り出すことで繊毛を作製した.繊毛群をアレイ状に作製するためには,最終的に除去されるスペーサ材料を組み合わせたプロセスを開発した.これにより,縦横で5×10の配列構造を作製できた.
流体的な特性をプランクトンの繊毛レベルに合わせるため,粘性の高いグリセリン中で同等のレイノルズ数となるように調整し,送液実験を行った.粘性流体中で作製した繊毛群は問題なく駆動し,流れを発生させることに成功した.また,駆動周波数を変化させることで流速も変化することを確認した.さらには繊毛の追従性の確認実験を行い,微生物の繊毛運動と同等の15Hz程度の周波数でも十分な変位が発生していることが確認できた.
28年度の実施計画
磁性粒子を分散させたシリコーンゴム材料(PDMS)を用い構造を作製する.この特徴としては,外部磁場による変形挙動を変化させるために構造内部で磁性粒子を鎖状に配向させた構造を作製することである.これにより,同一外部磁場のもとにおいても,変形挙動を変化させることができる.このような異なる磁気異方性を持つ繊毛を多数配置した人工繊毛表面を構築し,メタクロナール波を実現する.
平成27年度には,高さ3mm程度の繊毛を50本設置した構造を作製し,回転磁場によりメタクロナール波が再現できることを示した.本年度においては,紫外線レーザ光源と紫外線硬化ゴム材料を用いた新たな微細構造作製システムを完成させ,高さ100μm程度までの小型化を目指す.
28年度の実施報告
微生物の表面や哺乳動物の気管には繊毛状の構造が絨毯のように生えており,この個々の繊毛構造が往復運動を行うことにより,流体の搬送や吸入した異物の搬送除去といった機能を実現している.本研究ではこのような繊毛を人工的に再現することを目的としている.
利用する材料は磁性粒子を分散させたゴム材料である.すなわち磁性ゴム材料と言える.この材料は柔軟であり,外部磁場により駆動することが可能である.繊毛状の構造をこの材料で作製し,磁場による駆動を行った.
一つ目の成果として,簡単な回転磁場の印加により生体と同様の挙動を示す人工繊毛を駆動できたことである.微細な領域では行きと帰りで異なる動きをすることにより初めて流れを起こすことが可能となる.この方法で自然界の動きを模倣することに成功した.
二つ目の成果としては,メタクロナール波の実現である.天然の繊毛群は稲穂が風になびくように,その動きの位相を伝播させながら駆動している.この位相の伝播により流体搬送効率が上昇することは,流体解析を使った研究により既に知られているが,微細構造で実現することは困難であった.本研究ではゴム材料を硬化中に磁場を印加することにより,各繊毛に磁気的な異方性を付与することにより,同一の磁場中で異なる位相の運動を行う人工繊毛を開発することに成功した.これは微細レーザ加工装置を組み合わせた新たに提案した手法を用いることにより初めて実現したものである.