玉川 雅章
27年度の実施計画
本研究課題の目的のために把握しておくべき基礎的な現象として,白血球運動の速度に関して,(1)白血球が一定の溶液中において濃度勾配を受けて移動するときの界面張力のみによる速度 (2)重力や自由表面の影響による溶液中の対流から生じる速度,の2つが挙げられる.このうち(1)についての速度を測定する.そのため,倒立顕微鏡に取り付けられたCCDカメラを用いて,液体中に分散している白血球にサイトカインを滴下したときの挙動を観察しその速度を計測し,その推進力を測定する.
これらの点を鑑み,平成27年度は以下の計画で行う
(1) 溶液中白血球のサイトカイン濃度勾配による運動の観察と測定
(A) 顕微鏡下で,誘因物質であるサイトカイン(IL-8)の濃度勾配をマイクロシリンジ等を用いて生成し,水溶液のセル内に浮遊している白血球に2次元的に作用させる.セル中心部にある白血球の動きを,位相差顕微鏡でCCDカメラに撮影し,各白血球の速度を粒子追跡計測の画像処理から求める.これらの条件により,サイトカインの滴下する場所,観察する白血球の位置の2点がわかれば,過渡的な濃度勾配が作用したときの白血球
速度を平均的に求めることができる.一方,界面張力導出の式らから,温度一定のもとでは,濃度勾配に比例した力が微粒子に作用すると考えられる.微粒子に働く力がストークス抵抗として,速度と濃度勾配のグラフを得る.また,この関係について,パラメータとして,白血球の周囲液体の環境(生理食塩水,培養液,イオン緩衝液)などの影響を調べる.一方で,測定点での濃度勾配を厳密に出すため,サイトカインに付着させた蛍光物質を顕微鏡下でCCD観察し,その拡散状態(輝度分布,輝度勾配分布)を実験的に求める.
27年度の実施報告
人体中の血液に含まれる数マイクロメートルの大きさの白血球粒子は,免疫機能を持ち,細菌や炎症部へ向けて移動するといった性質を持つ.この白血球の駆動原理としては,細胞内でのアメーバ運動の他,白血球に働く炎症部より生成される誘因物質のサイトカイン濃度勾配による界面張力勾配駆動がある.この界面張力駆動力による白血球の運動が制御できれば,人体内でのドラッグデリバリーシステムへの発展が期待できる.また,模倣して人工的に作り出すことで,濃度勾配によって推進力を発生するバイオ操作の開発が可能となる.
本研究においては,駆動力が 界面張力勾配のみが働く水溶液中下で,濃度勾配を実験的に変化させて,顕微鏡を用いた白血球粒子移動の観察と原子力間顕微鏡による働く力の計測を行い,界面張力勾配による白血球運動機構の解明を行い,この生物の機能を模倣した濃度制御型微細表面加工のための基礎的研究を行う.本研究課題の目的のために把握しておくべき基礎的な現象として,白血球運動の速度に関して,(1)白血球が一定の溶液中において濃度勾配を受けて移動するときの界面張力のみによる速度 (2)重力や自由表面の影響による溶液中の対流から生じる速度,の2つが挙げられる.
平成27年度は,このうち(1)についての速度および濃度を測定した.そのため,倒立顕微鏡に取り付けられたCCDカメラを用いて,液体中に分散している白血球にサイトカインを滴下したときの挙動を観察し濃度輸送の観察から, 好中球膜上で濃度勾配と反対の勾配が生じ,好中球膜上におけるサイトカインの拡散は微粒子に働く駆動力よりも大きな駆動力が発生すること,好中球膜上における輝度分布の勾配が正,負の値を取りながら振動していることがわかった.
28年度の実施計画
本研究課題の目的のために把握しておくべき基礎的な現象として,白血球運動の速度に関して,(1)白血球が一定の溶液中において濃度勾配を受けて移動するときの界面張力のみによる速度 (2)重力や自由表面の影響による溶液中の対流から生じる速度,の2つが挙げられる.このうち(1)についての速度を測定する.そのため,倒立顕微鏡に取り付けられたCCDカメラを用いて,液体中に分散している白血球にサイトカインを滴下したときの挙動を観察しその速度を計測し,その推進力を測定する.
前年度の計測により,下記(1)の項目の重要度が高いことがわかったため,粒子にかかる力の計測の項目とMEMS流路の開発に変更する.
(1)濃度勾配一定のMEMS流路の開発
前年度の研究によって,濃度計測や粒子の運動を計測することができたが,濃度勾配一定の条件を過渡的な濃度場を利用しているため評価が難しいため,今年度新たにマイクロ流路を作成して,その中での濃度勾配一定の観測を行う.
(2)ポリスチレン粒子へのマランゴニ効果による移動
着想に至った経緯のところで述べたように,本研究のねらいはドラッグデリバリーシステムのカプセルへの拡張であり,その可能性を示す応用実験を行う.(1)で白血球を観察した測定系において,比重が水とほぼ同じポリスチレン粒子(数ミクロン程度)に対し,濃度勾配に対して界面の性質を変化させる加工をほどこし,速度の画像計測を行い,表面構造のカプセル輸送動力源としての可能性を調べる.
28年度の実施報告
人体中の血液に含まれる数マイクロメートルの大きさの白血球粒子は,免疫機能を持ち,細菌や炎症部へ向けて移動するといった性質を持つ.この白血球の駆動原理としては,細胞内でのアメーバ運動の他,白血球に働く炎症部より生成される誘因物質のサイトカイン濃度勾配による界面張力勾配駆動がある.この界面張力駆動力による白血球の運動が制御できれば,人体内でのドラッグデリバリーシステムへの発展が期待できる.また,模倣して人工的に作り出すことで,濃度勾配によって推進力を発生するバイオ操作の開発が可能となる.本研究においては,駆動力が 界面張力勾配のみが働く水溶液中下で,濃度勾配を実験的に変化させて,顕微鏡を用いた白血球粒子移動の観察と原子力間顕微鏡による働く力の計測を行い,界面張力勾配による白血球運動機構の解明を行い,この生物の機能を模倣した濃度制御型微細表面加工のための基礎的研究を行う.
白血球粒子移動速度およびサイトカイン濃度を測定として,倒立顕微鏡に取り付けられたCCDカメラを用いて,液体中に分散している白血球にサイトカインを滴下したときの挙動を観察し濃度輸送の観察と計測を行った.その結果, 好中球膜上で濃度勾配と反対の勾配が生じ,好中球膜上におけるサイトカインの拡散は微粒子に働く駆動力よりも大きな駆動力が発生すること,好中球膜上における輝度分布の勾配が正,負の値を取りながら振動していることがわかった.これとともに,微粒子の表面加工の規則性やパターニングへの可能性が示唆された.
また,濃度勾配一定の条件を行うための,マイクロ流路を作成してマイクロ流路の基盤部を作成したが,加工精度の問題もあり,流入部から濃度勾配の一定の制御が達成できていないため,引き続きの製作と数値計算による装置内の濃度予測計算を行って設計の見直しを行っている.