公募研究班(平成27年度)

藤井 秀司

27年度の実施計画

本研究では、前述した目的を達成するために、下記項目について検討を行う。

(1)高分子微粒子の精密合成・評価

リキッドマーブルの安定化剤として使用する疎水的表面を有する固体粒子、およびリキッドマーブル内部に導入する粘着性粒子の水分散体を合成する。リキッドマーブルの安定化剤として、疎水性分子で表面がコーティングされた微粒子を合成する。粘着性粒子については、工業的に粘着剤のベースポリマーとして利用されている高分子をベースとし、表面の親水性疎水性バランスの異なる粒子の精密合成を行う。さらに、生成粒子の粒子径・粒子径分布、形状、化学組成評価する。

(2)リキッドマーブルの作製および形成機構の解明

粘着性高分子微粒子水分散体の液滴を、疎水的表面を有する高分子微粒子乾燥粉末上で、様々な条件下(温度、湿度、時間)において転がすことでリキッドマーブルを作製する。さらに、粒子の気液界面吸着挙動・状態を評価することでリキッドマーブルの形成メカニズムの解明を行う。具体的には、粘着性高分子微粒子の気液界面への吸着による表面張力の経時変化を、表面張力測定装置を使用して測定することで、粒子の界面への吸着速度、および界面活性能を数値化する。また、リキッドマーブル表面を共焦点レーザー顕微鏡で観察することで、空気-水界面において粘着性粒子と疎水的粒子の乾燥粉体が形成する構造を評価する。取得するデータとリキッドマーブルの安定性の相関関係を明らかにすることで、リキッドマーブル形成メカニズムの解明につなげる。

27年度の実施報告

本研究では、高粘度液体である粘着性高分子の液滴表面を固体微粒子で覆ったリキッドマーブルを作製し、粘着剤の粉末化を目指す。また、リキッドマーブルの形成メカニズムの解明を行うとともに、外部応力による粉末状粘着剤の粘着力発現機構を明らかにし、材料化学分野へ研究を展開する。平成27年度は、下記2項目について検討を行った。

(1)高分子微粒子の精密合成・評価
リキッドマーブルの安定化剤として使用する疎水的表面を有する固体粒子、およびリキッドマーブル内部に導入する粘着性粒子の水分散体を合成した。具体的には、リキッドマーブルの安定化剤として、疎水的高分子であるポリジメチルシロキサンで表面がコーティングされた微粒子を合成した。また、粘着性粒子については、工業的に粘着剤のベースポリマーとして広範に利用されているポリアクリル酸ブチルをベースとするラテックスを無乳化剤乳化重合により合成した。さらに、生成粒子の粒子径・粒子径分布、形状、化学組成を評価した。

(2)リキッドマーブルの作製および形成機構の解明
粘着性高分子微粒子水分散体の液滴を、疎水的表面を有する微粒子乾燥粉末上で転がすことでリキッドマーブルの作製に成功した。固体粒子粉末上における粘着性高分子微粒子水分散体の接触角を評価したところ、90度以上の接触角を示す系において、安定なリキッドマーブルが形成され、少なくとも1日間は内部液が漏れだすことがないことを確認した。比較実験として表面疎水化処理を行っていない親水的表面を有する粉末上では、粘着性高分子微粒子水分散体は安定なリキッドマーブルを形成せず、液体は粉末に吸収されることを確認した。以上の結果から、ラテックスの粉末に対する濡れ性がリキッドマーブルの形成に重要なパラメーターであることを明らかにした。

28年度の実施計画

本研究では、前述した目的を達成するために、下記項目について検討を行う。

(1)粉末状粘着剤の作製および構造評価

粘着性高分子微粒子水分散体を内部液とするリキッドマーブルから、様々な条件(温度、湿度、圧力)において水を蒸発させることで粉末状粘着剤を作製し、蒸発速度と生成粉末状粘着剤の構造・形成性の相関関係を精査する。微小液滴は比表面積が大きいため、バルク状態の水と比べ蒸発速度が高く、その内部液の流れの向き・速度が粉末状粘着剤粒子の構造に影響を与えると予想される。粉末状粘着剤の表面および内部の化学組成および構造評価を、元素分析器、電子顕微鏡、X線光電子分光装置、BET装置(現有設備)を用いて行う。また、粉末状粘着剤のハンドリングを考慮すると、流動性の評価は非常に重要である。そこで、粉末状粘着剤の安息角測定を行い、粉体の流動性評価を行う。

(2)粉末状粘着剤の粘着性発現メカニズムの解明

粉末状粘着剤の外部応力(圧縮応力およびせん断応力)に対する初期粘着力(タック)、粘弾性等の粘着特性変化を、タック試験機、レオメーターおよび微小圧縮試験機を利用し評価する。さらに、粘着性発現前後における粉末状粘着剤の表面、内部の化学組成および構造を、電子顕微鏡、X線光電子分光装置を用いて評価する。予備実験において、粉末状粘着剤にせん断応力を加えることで、初期粘着力が発現することをタック測定実験により確認している。粘着性微粒子の水分散体を内部液とするリキッドマーブルの作製が困難な場合、加熱することで粘度を低下させた粘着性高分子を直接用いて粉末状粘着剤の作製を行う。
上記の研究を通じて得られた結果を取りまとめ、学会発表、論文投稿を行う。

28年度の実施報告

本研究では、高粘度液体である粘着性高分子の液滴表面を固体微粒子で覆ったリキッドマーブルを作製し、粘着剤の粉末化を目指す。
また、リキッドマーブルの形成メカニズムの解明を行うとともに、外部応力による粉末状粘着剤の粘着力発現機構を明らかにし、材料化学分野へ研究を展開する。平成28年度は、下記2項目について検討を行った。

1.粉末状粘着剤の作製および構造評価

粘着性高分子微粒子水分散体を内部液とするリキッドマーブルから、様々な条件において水を蒸発させることで粉末状粘着剤を作製し、蒸発条件と生成粉末状粘着剤の構造・形成性の相関関係を精査した。粉末状粘着剤の表面および内部の化学組成および構造評価を、元素分析器、電子顕微鏡、X線光電子分光装置、コンピュータ断層撮影装置を用いて行った結果、リキッドマーブルの安定化剤である固体ナノ粒子の凝集体が粘着性高分子の液滴の表面に吸着していることを明らかにした。また、粉末状粘着剤の安息角測定を行い粉体の流動性評価を行った結果、良好な流動性を有することを確認した。

2.粉末状粘着剤の粘着性発現メカニズムの解明

外部応力(圧縮応力およびせん断応力)が粉末状粘着剤の初期粘着力(タック)に与える影響を、タック試験機を利用し評価した結果、応力を印加することでタックが発現することを確認した。また、粘着剤に対して被着体を接触させる際の圧力を高くすると、粘着力が向上することを明らかにした。さらに、粘着性発現前後における粉末状粘着剤の表面、内部の化学組成および構造を、電子顕微鏡、X線光電子分光装置、コンピュータ断層撮影装置を用いて評価した結果、外部応力印加後、リキッドマーブルの安定化剤である固体ナノ粒子が、粘着剤の表面から内部に潜り込み、表面に粘着性高分子が露出している様子を確認した。

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