香坂 玲
27年度の実施計画
本年度は、上記課題の各領域について、消費者とのコミュニケーションを、モデルに沿って類型化し、データベースに事例として蓄積していく。データベースやウェブアンケートについては、本領域の研究者と協力して実施する。 また領域内の研究者に対しても、ウェブ上のアンケート調査を実施し、DBの構築、他分野との交流、アウトリーチ活動を実施した経験から得られた知見を収集する。消費者と研究者の感じている課題の違い、技術の適用局面の違いから、そのコミュニケーション・ギャップを明らかにし、それをフィードバックしたうえで、フォローアップのヒアリング調査を規格化に関わる企業、行政に対して行う。
27年度の実施報告
本年度は、ステークホルダー間のコミュニケーションに関し、特に、研究者と製品開発に関わる技術者間の関係性に着目した。具体的には、欧州や中国など各国の学術論文発表数と特許出願件数を指標として分析を行い、産学連携や分野横断についての日本の特徴と課題を明らかにし、論文として取りまとめた(査読付き2編、著書[章分担]1、依頼講演1、学会発表2)。同時に、次年度の技術ユーザーの分析の計画を立案した。さらに、成果の発信としては、ISO(TC266)の委員会メンバーとして標準化プロセスに参画した。また、技術経営マネジメントを専門とするドイツの研究者を、大阪大学機能創成セミナーにて招聘し、情報共有を行った。「生物模倣技術の社会実装に向けた標準化」セミナー:(GRIPS・NISTEP・JSA・バイオミメティクス研究会[TC266国内審議会]主催)標準化討論会を実施し、研究機関、企業関係者等と標準化について情報の発信・共有を行った。また、日本知財学会の学会誌にて特集号の編集を行うなど、次年度に向けて成果の発信の準備をした。
28年度の実施計画
生物模倣技術の社会実装の研究開発から製品開発に至るプロセスの現状分析として、初年度に実施した技術の社会実装に関する指標(特許出願件数、論文発表件数等)の分析結果および分析に用いた特許技術を精査し、特許技術において応用されている生物模倣技術の抽出手法を特定し、開発されている製品の動向について考察する。
生物模倣技術を活用した技術・製品の開発を行ううえで、技術者が参照する生物模倣技術データベースに関して、既存の特許技術との関連を探り、企業等の技術者が必要とするデータベースの有り方についてヒアリング等を通じて明らかにする。
様々なメディアにおいて発信されている生物模倣技術について、その内容のトレンドを分析すべく、主に新聞記事に着目してデータベースの構築を行い、そのトレンドに関してテキストマイニングの手法を応用して考察し、論文発表や特許出願におけるトレンドと比較することを通じて、技術の開発からユーザーへの発信に至るプロセスにおける関係者の意識のギャップを解明する。
特許および規格化の国際的な動向に関して、網羅的なレビューおよび海外の共同研究者を通じた調査を実施し、今後の特許技術開発と規格化の将来的な方向性について明らかにする。
28年度の実施報告
本年度は、学術誌の特集号(日本知財学会誌 Vol.13 No.2)の編著を行い、本研究及び領域全体の成果についても発信を行った。本特集号は研究者のみならず企業関係者も執筆者として参画する構成として、社会実装の多様な担い手を含む情報発信を実施した。学会発表では、知財学会、国際学会での発表に加え、日独の国際学会にて招待講演を行った。
具体的な実績の内容に関しては、まず、消費者を含む一般技術ユーザーの視点についても調査を行い、科学者、技術者の視点との差異の検証を行った。国立科学博物館における生物模倣技術の企画展示会への来訪者を対象に調査を行い、技術の価値が提示される前後の状況に関して、対象者の技術に対する期待や意識の調査を行った。その結果、比較的高い年齢層で価値の提示によって期待度が高まる傾向等が明らかとなった。さらに、技術ユーザーは医療分野に期待を寄せる傾向がみられ、日本において、論文発表に加え、技術開発の促進にともなう特許出願が求められる状況が把握された。また、メディア分析として新聞記事のテキスト分析を行い、生物そのものを扱うバイオテクノロジーから、その表面構造、動き、機能等を模倣する技術に注目する報道の変遷が特定された。さらに、特許や論文を発表する主体の社会実装に関する姿勢や意識について、個別ヒアリング、質問票等による調査も含め詳細調査を行った。結果、日本において企業の技術が論文を発表しにくい環境にあることが明らかとなった。特許と論文の分析に関しては、他の注目技術等と、生物模倣技術の傾向を比較したところ、日本の傾向は、特許が先行し、論文については国際的な影響力が小さい状況が共通してみられることが特定され、論文発表に反映される基礎的な研究の促進と、成果を実社会へ伝達するコミュニケーション手段の確立が日本の課題として見出された。尚、技術ユーザー分析結果は国際学術誌に投稿中である。