公募研究班(平成25年度)

馬奈木 俊介

25年度の実施計画

本年度は、以下の2点についての研究を推進する。

a.生物規範工学技術の現実的応用可能性についての把握
始めに企業アンケート調査を行い、現在及び中長期的に応用する可能性のある生物規範工学ベース技術の把握、分類を行い、販売される可能性のある製品やシステム及びそれらを包括したライフスタイルとの関係性を技術ごとにマッチング及び視覚化する。同様に、応用される技術に必要となる研究開発費、研究期間、製品(システムを含む)の販売費、収益率、スペック、利用特許数等を可能な範囲で把握し、企業財務データを含め、データベース化する。この結果からコア技術とそれを有するコア企業及び産業の把握を行い、シミュレーションにおいて感度分析に使用する要因の特定を行う。
より具体的には、カタツムリの殻の表面の構造が応用されたバスタブのような、すでに製品化されている技術について検証を行い、それらの技術が生み出した利潤、生物多様性の確保などの環境負荷の軽減を算定し、Schwartz (2002)によって開発されたリアル・オプションの手法を用いたシミュレーション分析を行う。

b.生物規範工学技術を利用した製品に対する個人消費行動の変化に関する経済的評価
次に、生物規範工学に基づく製品やライフスタイルと現状の比較行い、新技術に対する個人の消費行動のインパクトと、それらを包括したライフスタイルへの変化に対する需要の大きさを明らかにする。同様に生物模倣技術が持つ無形資産的価値の推計を行うことで「生物多様性」の環境・経済評価の基準を提示することが可能となる。このプロセスにおいては先のデータベースを利用した数値を用いることで、より現実的な検証が可能となる。
より具体的には、先にあげたようなバスタブのような実用化された技術に対する消費者の需要のあり方をデータから算出し、バックキャストの手法を利用して将来予測に応用する。

25年度の実施報告

平成25年度では、企業の生物を規範とする技術開発に関する動向を把握するために企業を対象としたインタビュー調査を行い、生物を規範とする技術で既に製品化されている製品の動向を把握するとともに、現状企業側が所望する新技術はなにか、またそうした技術が応用可能な製品のうち、実現可能性の高い技術はなにかを定性的にまとめた。また、現在、生物規範工学を応用した企業の現状の把握、技術に対する研究開発投資額などのデータを可能な限り収集し終えた。さらに、印刷産業、化学産業、鉱工業、輸送業、繊維産業、の5産業の企業に対する調査を行った。これらの産業において生物規範工学を応用した技術に製品化している企業の株価とR&D投資額に関するデータを収集し、次年度のシミュレーションへの準備を行った。
一方で企業の社会的責任(CSR)達成を目的とし行う、環境保全を目的とした投資(SRI)と同様の目的を持った基金を設置することが企業の増益に対して与える影響を、評価した。これにより、一般的に環境保全に取り組む投資と基金は、どちらも企業の利益を増加については、必ずしも効果的ではないことが分かった。しかし、このような結果はCSRの達成が目標であることが原因であると考えられる。より純粋に増益を目標とした生物規範工学に基づく技術への投資への効果とを比較する材料として、今後の考慮に加える。

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