公募研究班(平成25年度)

出口 茂

25年度の実施計画

1.セルラーゼを用いたモデル実験系を確立し、ピット形成の動的過程を測定する。実験はセルロースゲル表面にインクジェット装置を用いて数十pLのセルラーゼ溶液を滴下した後、加水分解反応の進行に伴って形成されるピットの体積を経時的に精密測定することで行う。また並行してピット形成ダイナミクスを記述するモデルを構築する。

2.水に不溶な基質の加水分解に伴う体積減少を測定するという本手法のセンシング原理は、水に不溶な基質に作用する酵素全般に適応可能である。そこでプロテアーゼ、キチナーゼ、アガラーゼなどの活性測定を行い、手法の一般化を図る。

3.本手法を応用して、暗黒の深海から新規性の高いセルラーゼ生産菌を分離している。これらの深海由来微生物が生産するセルラーゼを対象に、菌株の大量培養と酵素の精製・特性化、ならびにゲノム情報を利用したセルラーゼ遺伝子のクローニングを行い、深海微生物由来セルラーゼに固有のセルロース分解機構を解明する。

25年度の実施報告

1.セルラーゼによってセルロースゲル表面にピットが形成される動的過程を測定できる実験系を構築し、加水分解速度を測定することに成功した。同時にピット形成過程を記述する数理モデルの構築を開始した。

2.基質としてゼラチンのヒドロゲルを、また酵素としてプロテアーゼを用いて、プロテアーゼ活性を測定する実験手法を確立した。

3.深海由来のセルラーゼ生産菌GE09株およびTYM8株のゲノム配列を解読した。前者に関しては、セルラーゼ遺伝子をクローニングし、組み換え実験によって大量発現させた酵素が、実際にセルラーゼ活性を有することを確認した。また後者に関しては大量培養を行い、酵素を精製した。

26年度の実施計画

1.新たに導入した高速スキャンが可能な3Dレーザー顕微鏡を利用して、ダイナミクス解析に重要な反応の初期過程を高い時間分解能で測定する手法を確立する。さらにピット形成ダイナミクスを記述する数理モデルと実験結果を比較し、酵素反応によるピット形成メカニズムを解明する。

2.プロテアーゼとゼラチンを用いた実験結果と1)で得られた数値モデルとの比較、キチナーゼやアガラーゼの活性測定などを行い、手法のさらなる一般化を図る。

3.昨年度に得られた配列情報をもとにしたドメイン構造の解析、さらには組換え実験による酵素の発現と特性化によって、深海微生物由来セルラーゼに固有の特徴を明らかにする。

26年度の実施報告

申請者らはSPOT(Surface Pitting Observation Technology)と呼ばれる、従来法とは異なる原理に基づいたセルラーゼ活性のセンシング手法を開発した。本手法はセルロースナノファイバーからなるヒドロゲルを基質に用い、ゲル表面に数十pLのセルラーゼ溶液を滴下した際に加水分解によって形成されるピットの体積を指標としてセルロースの酵素加水分解をセンシングする。

平成25度の研究で、SPOTによるセルラーゼ活性検出機構を解明するためには、測定の時間分解能を向上させる必要があることが明確になった。そこで平成26年度は高速スキャンを特徴とする3D顕微鏡を用いた新たな実験システムを構築した。新システムでは、試料ステージ上に設置したナノファイバー基板の温度制御を可能にしたことに加えて、基板からの水の蒸発とそれに伴う基板表面の変形を抑制するための加湿チャンバーを構築した。ゼラチン/プロテアーゼを新たなモデル系に用いた実験では、4つのピットの体積を約20秒程度で測定可能であり(従来システムでは1つのピットの体積測定に約5分)、測定の時間分解能を大幅に向上させることに成功した。加えて酵素の基板中における拡散、基板との反応、さらには基板の幾何学形状を合わせて考慮した数理モデルを構築し、その数値シミュレーションによってピット形成メカニズムを再現することにも成功した。

また平成25年度までに、SPOTを用いて深海環境から単離したセルラーゼ生産菌GE09株からセルラーゼ遺伝子をクローニングした。平成26年度は組換え酵素のキャラクタリゼーションを行い、低温での活性(10℃から活性が認められ35℃で活性消失)や添加塩濃度に依存した比活性の上昇など、深海環境に適応した酵素であることを示唆する知見を得た。

さらにSPOTによる酵素活性測定手法の更なる応用可能性を探ることを目的に、第14回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(2015年1月28日-1月30日、東京ビッグサイト、東京)においてブース出展ならびにセミナーを行った。

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