公募研究班(平成25年度)

田中 博人

25年度の実施計画

1.しわ構造の各種形状パターンの理論的評価:「しわ」の基本断面形状を考え、伸縮性・柔軟性・重量につい
て有限要素法数値解析を行い、各基本形状の特性を理論的に評価する。数値解析には所属研究期間が所有する商
用ソフトウェア ANSYS を用いる。
2.微細なしわ構造の製作プロセスの確立:しわフィルムの製作方法は、まず表面にしわ形状を持つモールドを作成し、その形状をフィルムに転写する。フィルムの製作方法として以下の 3 つが考えられる。①平坦な熱可塑性フィルムをしわモールドでプレス、②モールド表面に熱硬化性ポリマーをスピンコートして硬化③モールド表面にパリレンフィルムを蒸着・成膜。それぞれ一長一短があり、具体的なフィルム厚や形状に応じて使い分けていくが、フィルムの均一性や強度の点で、パリレン蒸着が最も有望である。微細なしわ形状のモールドの製作方法として以下の 3 つが考えられる。①CAD/CAM による切削、②3 D プリンタ、③MEMS フォトリソグラフィー、④エラストマー(ゴム)を用いた自己組織的なしわ形状の創出。CAD/CAM は設計した 3 次元モデルの通りに数値制御で切削できるので、複雑な形状でも製作可能であり、最も汎用性がある。ただし市販のエンドミル径は最小で 0.01 mm であり、これが解像度の限界である。近年 3D プリンタの利用が盛んであるが、紫外線硬化樹脂をステップ状に露光・硬化していくので表面に段差が残ってしまうため、本研究には利用しにくいと予想される。MEMS フォトリソグラフィーではサブミクロンスケールまでパターニングが可能であるが、任意の曲面形状の実現は難しい。エラストマーを用いた手法は、あらかじめ伸長させたエラストマー上に成膜し、その後エラストマーを元の形状に戻すと成膜されたフィルムに自然にしわが生じるという方法 、もしくはエラストマーに成膜後、エラストマーを圧縮するとしわが生じるという方法である。この手法ではエラストマーの伸縮の仕方によっては幾何学的な設計では得難い複雑で高機能な自己組織化的しわ形状が得られる可能性があり、注目される。3.機械特性の実験的評価:試作した「しわ」フィルムの引張り試験、曲げ試験、局所的荷重試験を行い、1.で得た理論値との比較を行い、目的に応じたしわ構造の設計指針を確立する。

25年度の実施報告

鳥の翼では柔軟かつ伸縮可能な翼面が羽根の微小な毛状構造の曲げ変形によって実現されている。本研究では、柔軟かつ伸縮可能なフィルムの構造として、微小なシワの曲げ変形によって伸縮性を実現するシワ付きフィルムを提案する。今年度はその製作方法として、微小なシワ形状を自己組織化的に生成してフィルムに転写する手法を考案した。シワ形状は、エラストマー基板の表面に比較的ヤング率の大きい薄膜を成膜し、面内で歪ませることで自己組織化的に形成した。歪み方向によってシワの配向を制御した。この基板上のシワに犠牲層を介しえてパリレンフィルムを蒸着し、犠牲層を除去することで、シワを有するパリレンフィルムを製作した。シワによってパリレンフィルムの見かけ上の引張弾性率が減少することを示すために、1 方向にシワを配向させたパリレンフィルムを用いて引張試験を行った。その結果、シワが無いフィルムと比較して、シワと平行な方向の見かけの引張弾性率はほとんど変化しなかったが、シワと垂直な方向の見かけの引張弾性率はシワが無いフィルムの 20% 程度になった。このシワ付きフィルムの応用として超小型羽ばたき飛行機の翼面フィルムとして用いることを想定し、固定羽ばたき機構でシワの配向による翼面変形を比較した。その結果、翼弦と平行にシワを配向させることで翼面の過剰なフェザリング変形が抑制できることを示した。これらの成果は国内学会と国際シンポジウムで発表された。

26年度の実施計画

昨年度までに,自己組織化シワ形状をパリレンフィルムに転写してシワフィルムを製作する方法を開発し, 1方向配向した単純なシワを持つフィルムを製作した.また小型羽ばたき機の翼膜への応用をめざし,羽ばたき試験を行ってシワフィルムの機械的耐久性を確認した.この結果を踏まえて平成26年度は以下の計画に基づいて研究を行った.

1.有限要素法シミュレーションによって,シワの形状(波長と振幅)と引張弾性率の関係を定量的に明らかにする.

2.断面2次モーメントの数学的解析によって,シワの形状(波長と振幅)と曲げ弾性率の関係を定量的に明らかにする.

3.羽ばたき翼膜への応用研究を進め,シワの配向と翼膜後縁の変形および平均揚力との関係を明らかにする.

4.単純な1方向のシワだけでなく,2 次元的な配向のシワを生成する.

26年度の実施報告

市販の有限要素法ソフトウェア(ANSYS R15.0)を用いて、シワの波長と振幅が引張剛性に与える影響を調べた。その結果、波長に対する振幅の比が増加すると引張剛性は指数関数的に減少することが分かった。また、断面2次モーメントから曲げ剛性を解析的に評価し、曲げ剛性は膜厚に対する振幅の比の 2 乗に比例して増加することが分かった。たとえば波長 100 mm、振幅 10 mm、膜厚 5 mm のシワフィルムの場合、引張剛性はシワが無い場合の 0.05 倍、曲げ剛性は 25 倍となる。

シワフィルムをハチドリサイズの小型羽ばたき飛行機の翼面フィルムに応用することを想定し、1 方向に配向させたシワフィルを用いて翼長 60 mm、最大翼弦長 30 mmの楕円翼を製作した。これを 1 自由度の羽ばたき機構に取り付けて 24 Hz から 28 Hz で羽ばたかせ、翼面変形と平均揚力を計測した。翼面変形の影響を比較するために、翼前縁と翼弦のフレームには剛体と見なせるカーボンファイバーロッドを用いた。その結果、シワが無い場合と翼前縁に平行に配向させた場合は、翼面フィルムの後縁部が不規則に大きく振動するフラッターが見られた。一方、シワを前縁に垂直に配向させると翼後縁のフラッターは抑制され、翼面全体が前縁まわりにねじれて適切な迎え角を取った。また平均揚力はシワなしと平行シワよりも 2 倍以上の大きさとなった。これによりシワによるフィルム剛性制御の羽ばたき翼における有効性が示された。

さらにシワの自己組織化の際に円周方向に圧縮変形を与えることで,放射状に配向するシワを生成した.羽ばたき翼膜へ応用した結果,1方向のみに配向したシワ翼膜で見られた翼膜中央部の「撚れ」が解消し,効率(平均揚力と消費電力の比)が向上した.

本研究の成果は国内学会の招待講演で 1 件発表し、国際論文誌に 1 件投稿中である(平成27年度掲載予定)。

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