B01-2班
28年度の実施計画
1) 自己組織的作成方法による高輝度表面構造の作成:
オパール粒子の支持基板の素材特性を検討し、3次元構造体への集積技術を拡大して表面積の大きな材料表面にも適応可能にし、光学的特性の計測を行った(不動寺、石井、吉岡)。H28年度は、この材料表面を用いて生物制御技術の確立を測り(不動寺、針山)、これまでのモスアイ技術と合わせて、班間連携の上、太陽電池作製技術への応用に資する。
2) 生物の形態形成の観察と工業化への検討:
これまでに透過型電子顕微鏡、NanoSuit(R)法によるSEM観察と遺伝子制御技術と併用し、3D-SEMを駆使して蛹から成虫脱皮する際に、細胞内アクチン繊維を細胞骨格とする微絨毛の出現と、細胞外分泌物のナノ構造体の形成の関係がわかった(木村、下村、針山)。H28年度は、分泌物の構造体と微絨毛の相互関係を数学的解析とともに解明する(久保、木村、下村、針山)。
3) 生物の厳密ではない構造が持つ緻密な機能についての解析:
robustnessをもっているともいえる良い意味での厳密ではない生物のデザイン・機能性は、つまり、「ある範囲の不規則性は無反射性などの機能の障害にはならない」ことを意味し、有力な工学的設計指針になると考えられた。A01班がもつ生物データベースに基づきサブセルラー・サイズ内に隠れている普遍性について調査(石井、下村、針山)し、種によらない普遍性を探り、その“構造的乱れ・ゆらぎ”に大きく影響を受けない“機能安定性”の起源を物理学的・数学的学理によって明らかにしてきた(吉岡、久保)。H28年度は、上記光学的特性とともに、モスアイ構造など同じナノ構造がもつ多機能性について、どの機能についても“機能安定性”があるかの研究を推進し、工学的利用を検討する。
28年度の実績報告概要
1)生物表面のサブセルラーサイズ光学システムを模倣した自己組織化構造色作成
タマムシのレプリカを用い、自己組織的にブラック反射構造を形成するコロイド粒子懸濁液に浸漬してモデルを作製した。行動実験から、タマムシが種内コミュニケーションに構造色を用いていることを検証した。3次元構造体への集積技術を拡大して表面積の大きな材料表面に適応可能とし、市場展開のための用途調査中である。多層膜干渉膜材料とモスアイ構造を組み合わせることで、滑落性や防汚性などの多機能性をもった表面光学材料として活用できる。
2)生物のサブセルラーサイズ構造の自己組織化による形態形成過程解明
ショウジョウバエ野生型の複眼を形成する個眼の角膜レンズ表面に微小パイル構造パターンがある。遺伝子操作実験により、遺伝子とその産物によって細胞外分泌物の集積が制御されていることがわかった。パイルパターンの直下に存在する微絨毛周辺に物質の集積を示す電子密度の高い部分と、発生に伴うパターンの経時変化が観察され、細胞外物質の形態形成と強い関連があることが示唆され、複眼表面に形成されるナノニップル構造とその起源となるアクチン微絨毛の構造的・数量的関係が見えた。
3)「“厳密ではない構造”だけど、緻密な機能」を実現し、かつ多機能性を保有している構造の発見
蛾の複眼表面には、光の波長以下の規則的に配列した微小パイル構造が存在し、乱れのない規則配列構造により無反射性を獲得していると考えられてきたが、生物の詳細な観察結果と、ボロノイ分割等の数学的解析法によって、突起の配列には秩序性が欠落した箇所が無数に存在していることが解明され、乱れがあっても反射率は低く維持されることが確かめられた。また、無反射性だけでなく、自浄作用(防汚)、滑落性など多機能性があることを実験的に確認することに成功し、市販のモスアイフィルムにも同様の機能があることが示された。