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B01-2班 過去の年次報告書

24年度の年次報告書

24年度の実施計画

1)光学材料としての機能特性に関する数学的物理学的および生体の自己組織化現象の発生学的解析
A. 光学材料としての機能特性に関する数学的物理学的解析
甲虫の複眼と鞘翅を中心に光物理学的解析を行う。①多層膜構造が見られるのに、鞘翅の角度を変えても色があまり変わらない理由、②多層膜の構造から推定される高い屈折率の数学・物理学的検証、③高い屈折率が生じる構造的化学的解析とその数学的意義づけ、④多層膜による高い反射率が生み出される理論的裏付け、また、⑤反射光の偏光成分の特徴などについて、生物学的特徴を十分に解析し、物理・数学的視点を加えて、その光学特性を明らかにする。
B.生体の自己組織化現象の発生学的解析
昆虫の外皮を中心に、細胞分泌物による細胞外構造の自己組織化の仕組みについて、生物学的解析を行う。Endocuticle, Exocuticle、そしてEpicuticleと層を形成することによって、多様な機能を生み出す仕組みを、鞘翅と複眼レンズの形態形成過程を微細構造観察と遺伝学的手法を組み合わせて研究を推進する。自己組織化現象の表面構造形成の指標として全ゲノム解析の終了しているショウジョウバエを用いて、自己組織化の形態形成に関わる細胞内骨格の出現と消失との関係を明らかにする。

2)昆虫光学材料の多機能性高効率性の仕組みの解明
昆虫の複眼の構造は光学材料としての高度な機能性をもつ。中でも表面構造が生み出しているモスアイ構造に基づく光との相互作用や、集光装置としてのレンズ系構造などは高効率な光の集光を行っている。この光との相互作用を生み出している構造と、その物質の特性を研究し、光学材料としての応用の規範となるモデル構造を探索する。

24年度の実績報告概要

1)光学材料としての機能特性に関する数学的物理学的および生体の自己組織化現象の発生学的解析

A. ヤマトタマムシとミドリフトタマムシの胸部および鞘翅の表面サブセルラー構造を透過型電子鏡を用いて観察し、反射スペクトルの角度依存性を光物理学的解析した。ミドリフトタマムシ胸部に顕著な凹凸構造があり、またヤマトタマムシの胸部および鞘翅には比較的小さな凹凸構造があった。平板なミドリフトタマムシの鞘翅はスペクトル反射に顕著な角度依存性があるが、凹凸構造をもつ部分は比較的少ない。微粒子が規則配列したオパール薄膜では一つのブラッグ反射の回折ピーク λが可視光領域 ( 400~750 nm ) に存在するとき構造色として視認できる。この平板状のオパール薄膜の表面にホットエンボスにより凹凸構造を加工することに成功し、反射光が修飾され、平板状の薄膜に比べてスペクトル反射の角度依存性が下がることがわかった。

B.ヤマトタマムシの成虫脱皮の際の胸部および鞘翅の反射スペクトルと形態の経時変化を追跡した。その変化とショウジョウバエのそれとが比較的同じ時間経過をたどることが確認でき、透過型電子顕微鏡を用いた超微細構造の観察には、ショウジョウバエの発生過程を用いることが確認できた。クチクラの自己組織化現象の表面構造形成に、細胞内骨格の出現と消失が関わっていることが強く示唆された。

2)昆虫光学材料の多機能性高効率性の仕組みの解明

ショウジョウバエやオオタバコガなどの複眼表面を走査型電子顕微鏡によって観察すると、およそ100nmのモスアイ構造が存在していた。工学的な集光装置としてのモスアイ構造には、完全な規則性のある構造を実現することが必須であると考えられていたが、生物表面は不規則性があるにも関わらず高性能な光学材料としての機能実現を達成していることがわかった。

25年度の年次報告書

25年度の実施計画

生物の表面構造を規範として材料設計を具現化し、省エネルギー生産プロセスを開発する。世界的にも注目を浴びている生物学的構造である、昆虫複眼のモスアイ構造、深海魚のタペータム、タマムシ・蝶の構造色などに焦点を当て、数学・物理・生物・化学・工学といった異分野連携の研究チームがもつ独自の視点から、その機能を明らかにする。また、材料設計やプロセスの転換を意識して、その機能を生み出している生物表面の形成プロセスを解明する。

そのために、ものづくりのための材料設計の規範として、あまり注目されてこなかった生物のサブセルラーサイズから超微細サイズまでの構造を、生きたまま観察できる生物学的計測法を確立し、多様な光学的機能の考察を進め、その構造がもつ物理学及び数学的特性を解析することにより基礎学問的理解を広げ、生物の表面構造に基づく工学利用可能な設計原理を提案する。

また、遺伝学的技術と構造観察法を併用して、生物発生過程における表面構造形成プロセスを明らかにし、生物プロセスを規範とした製造工程を利用することを目的とした基礎的データを集積する。

25年度の実績報告概要

①    生物の表面構造の工学的模倣技術の確立の一つとしての自己組織化を用いた構造色の作製

ヤマトタマムシの表面構造を解析すると、クチクラの表角皮がもつナノ構造の多層膜干渉によって発色していることがわかった。緑を呈する部分は、赤を呈する部分の層の厚さよりも薄い。この構造色は、ヤマトタマムシ間での種内信号であり、雌雄の弁別ではなく同種個体の認識として用いられていることを行動学的に確認した。ヤマトタマムシと同様に表角皮にナノ多層構造をもつミドリフトタマムシを規範とし、オパール粒子を利用することで簡便にタマムシの構造色を模倣することに成功した。本物のタマムシをマスターピースとしてシリコーンゴム(PDMS)モールドに転写し、さらにこのPDMSモールドから、カーボン粒子を含有したエポキシ樹脂で固めたレプリカを作製した。その後、コロイド粒子懸濁液に浸漬して自己組織的に湾曲表面にオパール被覆層を形成させた。

②    生物のサブセルラーサイズ構造の自己組織化の解明

昆虫のクチクラ形成に関する発生生物学的解析のモデル生物として、遺伝子操作可能なキイロショウジョウバエを研究対象の中心に据え、複眼表面構造と脚裏の微細毛構造(SETA)の自己組織化形成機構を解析している。野生型のショウジョウバエはおよそ800個の個眼からなる複眼を左右に一個ずつもち、各個眼を拡大して観察すると、角膜レンズ表面に固有のニップル構造パターンが観察される。特定の遺伝子の働き方を変化させると大きなニップルや波形のニップルパターンに表面構造が変化する。波形のニップルは別種のイエバエのパターンに似ている。このように生物のものづくりには種独自の正確さがあり、遺伝子とその産物によって細胞外の分泌物の集積も制御されていることがわかった。ニップルパターンに見られる超微細構造の自己組織化がどのような仕組みで決定されるのか、透過型電子顕微鏡を用いて、その形成過程を発生ステージごとに経時的に観察すると、ニップルの下にアクチン繊維に支持された微絨毛があり、その周辺にレンズ物質の集積らしき電子密度の高い部分が観察された。自己組織化現象としての形態形成時に、基盤のように現れるアクチン繊維構造とニップルの構造が関係をもっている可能性が高いことが示された。

③    「“厳密ではない構造”だけど、高度な機能」を実現している生物の発見に基づく工学的設計指針

現在までに、生物がもつ多様な光学的機能について検討を進めてきた。例えば蛾の複眼表面には、光の波長以下の大きさをもち、規則的に配列した突起構造(モスアイ構造)が存在する。モスアイ構造は、光の反射防止効果をもつことから、乱れのない規則配列構造を設計することで無反射性を獲得する研究が行われてきた。しかし、蛾の眼と同様な無反射性をもつ透明なセミの翅を観察すると、質的に異なる表面構造が存在することがわかった。突起のサイズは蛾の複眼と大きくは変わらないが、突起の配列には欠陥が無数に存在し、規則的あるいは結晶状とは呼べない程度にまで乱れていた。それにもかかわらず、カバーガラスとクマゼミの翅の反射特性を比較すると、カバーガラスは光を強く反射するのに対し、翅は光らず、高い反射防止効果の存在が確認された。この翅の透過率は可視光域で100%に近い透過性を示していた。乱れを含めた突起構造を仮定した解析を行うと、この翅程度の配列の乱れに対して、反射率は低いままであることが確かめられた。つまり、「ある範囲の不規則性は無反射性の障害にはならない」ことを意味している。セミの翅は「“厳密ではない構造”だけど、高度な機能」を実現しているといえる。このようなrobustnessをもつ生物のデザイン・機能は、有力な工学的設計指針になると考えられ、今後も、その他の生物の多様な光学的機能について同様の解析を試み、“厳密ではない構造”の知見を収集する。

26年度の年次報告書

26年度の実施計画

これまでの成果を発展させ、「サブセルラーサイズ効果」を生み出している生物の表皮の形成の仕組みを学び、その仕組みを模した工学的モデルの作成を継続する。

生物の表皮の超微細構造の形成はこれまでの研究から、次の3つの形成機構が考えられる。①クチクラなどの生物の細胞が分泌した物質の自己組織化には微絨毛のようなテンプレートを必要とする②マイクロリンクルなどのように発生段階で形と強度の局在が生じる際の力の変化による③物質あるいは周辺環境の偏りと相互作用によるチューリングパターンによる。この生物表皮の超微細構造解析には、既存の3D-SEMと「生きたまま、あるいは生きている状態をそのまま反映して電子顕微鏡観察する」NanoSuit法を適用していく。

陸生生物がもつ眼は、高い集光装置としての機能を備える一方で、動きや色といった信号受容のために特化した進化をしていることが明らかになってきた。高い集光能力に関してはこれまでと同様に研究を続け、同時に、深海性生物や植物など、特に集光能力を上げている生物にも解析の視点を広げて、多様な光学的機能解明を進める。一方、生物の「てきとうなつくり」の高機能性がわかってきた。工学的ものづくりを意識し、どの程度の「てきとうさ」までの許容が可能か、適当なものづくりという新しい発想をどのように現実のものづくりに適用していくかなどの検討を数学・物理学および工学的に行う。

これらの基本設計原理を規範として、生産技術的な観点から工学的生産プロセスに応用し、人工的に材料を「ある条件に追い込んで」いく生産技術を確立し、できる限り生物がもつ材料を用いて多様な製品を自己組織化によって作り挙げる方法を生み出す。具体的には、高分子やコロイド粒子の塗布や蒸発などの液相プロセスを中心とし、さらに、表面構造形成のためにテンプレートを利用したインプリントやエンボスなどのナノ・マイクロ加工によって昆虫と植物の花弁などの生物表面を模倣する。A01班のデータを利用し、B01全体との連絡を図り、プロダクトの社会的貢献をC01と共に推進を図る。

26年度の実績報告概要

生物表皮形成の自己組織化現象と、光学機能発現メカニズムを明らかにし、以下の3つの成果をあげた。

1) 生物表面のサブセルラーサイズ光学システムを模倣した自己組織化構造色作成

タマムシのクチクラは表角皮がもつ多層膜干渉によって発色している。タマムシをマスターピースとしてシリコーンゴム(PDMS)モールドに転写し、このPDMS モールドからカーボン粒子を含有したエポキシ樹脂で固めたレプリカを作製し、コロイド粒子懸濁液に浸漬して自己組織的に湾曲表面にオパール被覆層を形成させることに成功した。

2)生物のサブセルラーサイズ構造の自己組織化による形態形成過程解明

ショウジョウバエ野生型の複眼は、約800個の個眼からなり、各個眼の角膜レンズ表面にサブセルラーサイズのニップル構造パターンが観察された。遺伝子操作実験により、遺伝子とその産物によって細胞外の分泌物の集積が制御されていることがわかった。このニップルパターンの下に微絨毛があり、その周辺にレンズ物質の集積らしき電子密度の高い部分が観察された。

3) 「“厳密ではない構造”だけど、緻密な機能」を実現し、かつ多機能性を保有している構造の発見

蛾の複眼表面には、光の波長以下の規則的に配列した突起構造(モスアイ構造)が存在し、乱れのない規則配列構造により無反射性を獲得していると考えられてきた。しかし、蛾の眼や透明なセミの翅のモスアイ構造において、突起の配列には秩序性が欠落した箇所が無数に存在していた。その乱れにもかかわらず、可視光域で100%に近い透過率であり、高い反射防止効果があることが確認された。物理数学的解析を行い、この配列の乱れがあっても反射率は低く維持されることが確かめられた。また、このモスアイ構造は、無反射性だけでなく、自浄作用(防汚)、昆虫などの滑落性など多機能性を保有していることを実験的に確認することに成功し、製品開発の指針が示された。

27年度の年次報告書

27年度の実施計画

1) 自己組織的作成方法による高輝度表面構造の作成:

H26年度までに成功したオパール粒子の3次元構造体への集積技術を拡大して表面積の大きな材料表面にも適応可能にする。そのために、支持基板の素材特性と表面形状を検討し、集積する粒子との適合性を確立(不動寺、石井)する。作成した高輝度反射材の光学的特性を吉岡が測定し、針山が生物制御技術に落とし込む。この研究の中で色素増感太陽電池作製技術への応用に資する。

2) 生物の形態形成の観察と工業化への検討:

これまでに蛹から成虫脱皮する際に、細胞内アクチン繊維を細胞骨格とする微絨毛の出現と、細胞外分泌物のナノ構造体の形成に密接な関係があることがわかった(木村・下村・針山)。H27年度は、3D-SEMやNanoSuit®法を駆使して分泌物の構造体と微絨毛の位置関係を明らかにする。また、細胞外分泌物の濃度分布にも注目し、生物のサブセルラー・サイズの自己組織化現象がどのタイミングでどのように開始・継続されるかを、透過型電子顕微鏡の立体構築機能と遺伝子制御技術と併用して解析する。

3) 生物の厳密ではない構造が持つ緻密な機能についての解析:

robustnessをもっているともいえる良い意味での厳密ではない生物のデザイン・機能性は、つまり、「ある範囲の不規則性は無反射性などの機能の障害にはならない」ことを意味し、有力な工学的設計指針になると考えられる。これまでに知られていない他の生物の多様な光学的機能について同様の解析を試み、“厳密ではない構造”の知見を収集する。そのために、A01班がもつ生物データベースに基づきサブセルラー・サイズ内に隠れている普遍性について調査(石井・下村・針山)し、種によらない普遍性を探り、その“構造的乱れ・ゆらぎ”に大きく影響を受けない“機能安定性”の起源を物理学的・数学的学理によって明らかにする(吉岡・久保)。また、多機能性についても研究を促進する。

27年度の実績報告概要

1) 生物表面のサブセルラーサイズ光学システムを模倣した自己組織化構造色作成 タマムシのクチクラは表角皮の多層膜干渉によって発色している。タマムシをマスターピースとしてレプリカを作製し、自己組織的にブラック反射構造を形成するコロイド粒子懸濁液に浸漬してタマムシモデルを作製した。野外に置くことで、タマムシが種内コミュニケーションに構造色を用いていることを証明することに成功した。また、3次元構造体への集積技術を拡大して表面積の大きな材料表面に適応可能とした。
2)生物のサブセルラーサイズ構造の自己組織化による形態形成過程解明 ショウジョウバエ野生型の複眼を形成する個眼の角膜レンズ表面にサブセルラーサイズの微小パイル構造パターンがある。遺伝子操作実験により、遺伝子とその産物によって細胞外の分泌物の集積が制御されていることがわかった。透過型顕微鏡トモグラフなどの解析からパイルパターンの直下に存在する微絨毛周辺に物質の集積を示す電子密度の高い部分と、発生に伴うパターンの経時変化が観察され、細胞外物質の形態形成と強い関連があることが強く示唆された。
3) 「“厳密ではない構造”だけど、緻密な機能」を実現し、かつ多機能性を保有している構造の発見 蛾の複眼表面には、光の波長以下の規則的に配列した突起構造が存在し、乱れのない規則配列構造により無反射性を獲得していると考えられてきた。しかし、そのモスアイ構造において、突起の配列には秩序性が欠落した箇所が無数に存在しているにもかかわらず高い反射防止効果があることが確認され、物理数学的解析を行い、この配列の乱れがあっても反射率は低く維持されることが確かめられた。また、この構造は、無反射性だけでなく、自浄作用(防汚)、昆虫などの滑落性など多機能性を保有していることを実験的に確認することに成功し、市販のモスアイフィルムにも同様の機能があることが示された。

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