A01班 過去の年次報告書
24年度の年次報告書
24年度の実施計画
本年度、昆虫類・魚類・鳥類の各担当研究者は、博物館等に保管されている学術研究標本を活用して高情報量データ(走査電子顕微鏡画像、X線CT画像、マルチスペクトル画像など)の収集を進める。あわせて各構造に関する機能や、対象生物群の生息環境、系統関係等の生物学的情報をまとめたテキストデータを作成する。これまで限られた群の昆虫については、JSTのCREST研究事業の一環として行われてきたが、本研究では、その成果を展開しさらにオントロジーに基づくデータマイニングシステムと組み合わせることで、昆虫、鳥類、魚類などのより幅広い生物群への適用を目指している。そのため、きわめて異質なデータ同士の統合という、バイオミメティクス研究の振興に必要不可欠なテーマの遂行に主眼を置いている。
一方、情報科学担当研究者は、生物系担当者が収集したデータをもとにシステムの組み上げを開始し、次年度以降のデータベースの試験運用にそなえる。将来的な、工学的、社会的ニーズによる検索の機能、画像の類似性検索の機能を実装したバイオミメティクス・データベースの完成を目指して準備を進める。B,Cの各班が実施した研究の成果を統合できるしくみを設計・実装することによって、領域研究全体の成果を集約・統合化したデータベースへの発展を企図する。画像の類似性検索についても整備を進め、データベースに実装する。
24年度の実績報告概要
国立科学博物館においては、昆虫と魚類の観察、写真撮影のためのデジタルマイクロスコープシステム(キーエンス社製)を購入した。昆虫担当の野村班では17サンプル、539枚の画像を撮影した。魚類担当の篠原班(篠原、松浦)ではサメ類を中心に魚類24科35種の体表面構造の探索を行い、SEM画像およびデジタルマイクロスコープ画像合計1,191枚を撮影し、同時にテキストデータも構築した。2012年9月17日、玉川大学にて開催された日本昆虫学会大会で関連のシンポジウムを開催し、野村が基調講演を行った。篠原班では領域内の他(B01)班と共同で、駿河湾において深海性魚類の採集、標本作成の実習を行った。次年度以降も実施予定。
鳥類担当の山崎班(山崎、上田、松原)では鳥の羽毛がもつ特徴的な形質に着目して、SEM観察を行った。防水・撥水性、構造色さらに独特の色彩様式を持つトキに注目して、7種9個体について97画像を作製した。また、学会発表と、色彩について扱った出版による普及啓発活動を行った。
データベースの構築を担当する溝口班(溝口、來村、古崎)では、材料研究者が求める機能,生物の生態環境,構造,行動など,生物学・工学の双方の知識を横断した様々な観点から検索可能なデータベースを実現する為のバイオミメティックオントロジーの基本設計を行った.また,外部に公開されている知識源と連携したより広範囲な検索を実現するために,Linked Data技術に対応したデータベースシステムを導入し,本研究課題で利用可能な既存データの情報収集を行った.
主に画像解析を担当する長谷山班では、より幅広い生物群への適用を可能とするバイオミメティクスデータベースシステムの組み上げを行った。また、本データベースにおいて、極めて異質なデータ同士の統合を可能とするための理論構築を行い、得られた成果に基づいてシステムへの実装を進めた。
25年度の年次報告書
25年度の実施計画
本年度は昨年度に引きつづき、昆虫類・鳥類・魚類の各担当研究者は、博物館等に保管されている学術研究標本を活用して、走査電子顕微鏡画像、X線画像、マルチスペクトル画像などの収集を進める。あわせて各構造に関する機能や、対象生物群の生息環境、系統関係等の生物学的情報をまとめたテキストデータを作成する。これにより、本データベースに収蔵するデータの拡充、充実を図る。同様のデータ作成はこれまで科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業の一環として、一部の昆虫について行われてきた。しかし本研究では、昆虫、鳥類、魚類のより幅広い生物群への適用を目指す。
一方、情報科学担当研究者は、生物系担当者が収集したデータをもとにシステムの組み上げを開始し、データベースの試験運用を目指す。本データベースの構築は、オントロジーと組み合わせることで、極めて異質なデータ同士の統合を可能にする。このようなデータ統合理論の形成は,上記事業においても実施されていないだけでなく、世界的にも独創的かつ挑戦的であり、バイオミメティクス研究の振興に必要不可欠なテーマととらえている。さらにB,Cの各班が実施した研究の成果を統合できるしくみを設計することによって、領域研究全体の成果を集約・統合化したデータベースへの発展を企図する。
25年度の実績報告概要
昆虫のデータ作成を担当する野村小班は、2013年8月までに74サンプル約8000件の画像データ+テキストデータを長谷山小班、溝口小班に提出した。また2013年7月に国立科学博物館で「昆虫の飛翔に関するワークショップ」を開催した。鳥類を担当する山崎小班では、羽毛表面構造の走査型電子顕微鏡画像を収集し、鳥類の適応的特徴をまとめたオントロジー用テキストデータの作成を進めた。また、鳥類の体内骨格構造を記録したX線CT画像データを収集し、色彩についてもマルチスペクトル画像データの収集を行った。魚類担当の篠原小班では、2013年度末までに魚類66種166個体の皮膚試料を収集し、SEM・デジタルマイクロスコープ画像収集およびテキスト情報の作成を進めた。また今年度、高知県においてB班の工学系研究者ともに魚類試料の収集を含むワークショップを開催した。
オントロジーを担当する溝口小班では、以下の2つのアプローチによるオントロジーの自動構築技術を開発した.1)専門書の全本文を対象とし,テキストマイニング(自然言語処理)技術により,オントロジーに追加する「用語,および用語間の関係性」を自動抽出する技術.2)既存のオープンなデータベースから関連する情報を自動抽出する技術.また、C01班と連携して、機能分解木を用いたバックキャスティング法の体系的分解によって,必要な技術要素の洗い出しをする方法の提案と試行を行い,有効性を確認した.
長谷山班では、発想支援型検索に基づく「バイオミメティクスデータ検索基盤」の試作システムを実装し、さらなる改良と高度化を実施中である。また、画像による画像の検索を可能とし、知識が少ない異分野のデータ検索を可能とした。以上に加え、生物のみならず、B・C班が実施した研究成果を統合できる仕組みを設計し、領域研究全体の成果を集約・統合化したデータベースへの発展を試みた。
26年度の年次報告書
26年度の実施計画
26年度は25年度に引きつづき、昆虫類・鳥類・魚類の各担当研究者は、博物館等に保管されている学術研究標本を活用して、走査電子顕微鏡画像、X線画像、マルチスペクトル画像などの収集を進める。あわせて各構造に関する機能や、対象生物群の生息環境、系統関係等の生物学的情報をまとめたテキストデータを作成する。これにより、本データベースに収蔵するデータの拡充をはかるとともに、これまで蓄積してきたデータの再確認、修正を行う。本研究では、昆虫、鳥類、魚類を含む、幅広い生物群のデータを収集し、テキストデータとともにデータベースとして構築するところに最大の特色がある。生物に関する特段の知識がなくても、生物規範工学についての「気付き」や指針が得られるシステムづくりを目指す。
情報科学担当研究者は、生物系担当者が収集したデータをもとにしたデータベースの構築をさらに進め、昨年度十分に実施できなかった試験運用の充実を目指す。本データベース構築の特色は、極めて独創的な工学的発想をもたらす画像検索と、生物情報に関するオントロジーと組み合わせることで、極めて異質なデータ同士の統合を可能にし、独自の発想を実現する点にある。このようなデータ統合理論の形成は,これまで類似の事業においては実施されていないだけでなく、世界的にも独創的かつ挑戦的であり、バイオミメティクス研究の振興に必要不可欠なテーマである。上記の構想は実際に実現しつつあるが、さらにB,Cの各班が実施した研究の成果を統合できるしくみを組み入れ、実装することによって、領域研究全体の成果を集約・統合化したデータベースへの発展を企図する。
26年度の実績報告概要
科博においては、現有2機の走査型電子顕微鏡(SEM)を活用して、昆虫と魚類の微細構造の観察、写真撮影を行った。また千歳科学技術大学(北海道千歳市)のナノテクノロジー支援事業に参加し、工学系研究者との共同研究を進めている。昆虫担当の野村小班では128サンプル、8399枚の画像を撮影し、情報系2小班に提出した。野村は今年度、日本顕微鏡学会、高分子学会、日本分類学会連合などの会合の席上でデータベース関連の講演を行った。魚類では60サンプル、2802枚の画像を作製し、一部をすでに提出済みである。篠原らは関連の欧文2論文を投稿中の他、日本魚類学会年会でも講演した。鳥類を担当する山崎小班では、山階鳥類研究所の標本資料から861枚のSEM写真を撮影するとともにテキストデータ80点を作成した。山崎らは鳥類の構造色に関して国際鳥類学会議で口頭発表を行い、物理学系の国際誌に論文を発表した。
これら生物系3小班から提出したデータを取りまとめて、情報系2小班(長谷山小班および溝口小班)が現在、データベースの構築作業を行っている。オントロジー工学の専門家からなる溝口小班は、生物学と工学の専門用語の関係性を整理することで構築したオントロジーを用いて、専門家のニーズに応じたキーワードを探索し,提示するシステムを試作し公開した。今後,利用者からフィードバックを受け更なる改良を進めていく。また、領域内C01班と連携し、機能分解木を用いた、2030年のライフスタイルからの必要な技術要素の洗い出し法の試行を行っている。画像データ検索機能の実装を担当する長谷山小班では、発想支援型検索に基づく「バイオミメティクスデータ検索基盤」の試作システムの実装を進めた、今後、さらなる改良と高度化を実施する予定である。
27年度の年次報告書
27年度の実施計画
本研究では、前述した目的を達成するために、生物系と情報系の研究者が協働して実施にあたる。本年度以降、生物系と情報系の研究者構成を大幅に組み替え、生物系2小班、情報系2小班の態勢で取り組むこととした。生物系では、昨年度までに引き続き、昆虫、魚類から走査型電子顕微鏡(SEM)画像などの生物データを収集する。しかしこれまでの年度とは異なり、データの選択と集中を行う。例えばB01-2班での研究に寄与するために昆虫のモスアイ構造や構造色に重点を置く。また、B01-1班での応用研究に向けた魚類のデータ提供を図る。あわせて各構造に関する機能や、対象生物群の生息環境、系統関係等の生物学的情報をまとめたテキストデータを作成する。これにより、生物に関する特段の知識がなくても、生物規範工学についての「気付き」や指針が得られるシステムづくりを目指す。
情報系担当研究者は、昨年度開始した「バイオミメティクス・データ検索基盤」の試作システムの班内での試験運用結果に基づき、これまでに開発してきたデータベースと検索システムの充実をはかる。領域内他班に対しても画像検索システムを順次公開し、フィードバック情報を集積してシステムの高度化を図るとともに、研究期間終了後の持続的な運用法についても検討する。異分野連携の可能性を実際のシステムで示したテキストデータについては、オントロジー技術を用いて専門分野の壁を超えた検索機能を実現しつつある。C01班とも連携し、社会科学的視点からの検索機能を組み込む。
得られた結果を基にして本年度、普及啓発書の出版、博物館を利用した企画展示などのアウトリーチ活動を通して、各方面への普及と人材育成を図る。さらに研究成果を発信する方法として、学会誌等への論文投稿や、学会、講演会等における成果発表を行う。
27年度の実績報告概要
本研究課題においては、今年度より研究組織の改編を行い、生物系2小班、情報系2小班の計4小班で当たることとした。生物系では、昆虫を担当する野村小班では、98サンプル、2,762枚の画像データを制作した。魚類を担当する篠原小班では、54サンプル、1,417枚の画像を作製し、情報系2小班へ提出した。以上の結果、昆虫のSEM画像は累計約19,000件、魚類は累計約4,600件となる。野村が日本生物物理学会で関連の講演を行ったほか、「生物の科学『遺伝』」誌で解説記事を書いた。また篠原も日本進化学会で関連の発表を行った。
情報系2小班(長谷山小班および溝口小班)では、生物系2小班から提出したデータを取りまとめて、データベースの構築作業を行っている。溝口小班ではオントロジー技術を用いて、専門家のニーズに応じたキーワードを探索,提示するシステムを構築し、さらなる改良を進めている。画像データ検索機能の実装を担当する長谷山小班では、発想支援型検索に基づく「バイオミメティクスデータ検索基盤」の試作システムの整備を進めた。今年度は領域メンバーに試作システムを公開し、演示会を開催して問題点の洗い出しに努めている。
本研究課題では研究成果のアウトリーチ活動として、本年度2つの大きな課題に取り組んだ。一つは一般向けの普及書の出版であり、もう一つは、来年度に実施予定の、国立科学博物館での企画展の準備である。前者については国立科学博物館叢書の第16巻として、「生物の形や能力を利用する学問 バイオミメティクス」(東海大学出版部刊)を2016年3月30日付、刊行した。後者についても領域全体での協力を頂き、来年度4~6月の開催に向けて準備を進めている。