B01-1班 過去の年次報告書
24年度の年次報告書
24年度の実施計画
1)自己組織化構造に基づいた可変構造を有するウェットマテリアルの調整
ハイドロゲルを基材としたウェットマテリアル表面にミクロンオーダーでの自己組織化ハニカム構造やコロイド集積構造、マイクロリンクル構造を作製する。その微細構造の力学変形能の解析・調整や、その構造における界面相互作用(吸着、摩擦等)を調査し、能動的なトライボロジー制御のための規範となるモデル界面構造を探索する。
2)自己組織化構造に基づいた可変構造の化学的修飾
トライボロジー機能には上記の構造や可変性も重要であるが、材料の化学的性質に由来する表面状態の制御も大きな効果が期待される。よって、ここでは機能性分子やポリマーを用いて上記構造の表面特性の改質法を探索する。
24年度の実績報告概要
H24年度の計画は、弾性体であるウェットマテリアルの表面において、微細構造の作製とその表面の化学修飾法の調査であった。
これに対し、我々は以下のような検討を行い、次年度に繋がる成果を得た。
①弾性体としてシリコーンゴム上に、トライボロジーテストにおいて重要であると考える比較的大きな周期の表面座屈構造(リンクル)の作製に成功した。この構造は応力で凹凸構造の有無を可逆的に制御できるため、派生的な応用として光拡散機能を評価しスイッチング可能な光拡散装置として利用できることが分かった。(特許出願済、論文投稿中)この構造はトライボロジー試験にすぐに利用できるものである。
②自己組織化高分子微細突起構造を柔らかいゲル上に固定、ゲルを圧縮することで、マイクロスケールの突起構造とサブミリスケールのリンクル構造が組合わさった階層構造が形成されることを見出した。さらにリンクル構造はゲルを圧縮・解放することで可逆的に構造の形成を制御することができ、しわ形成時には構造に異方性があることから、水滴の動的濡れ性にも異方性が生じることを確認した。
③均一な凹凸構造を有するハイドロゲルの作成法を検討した。ゲルを合成する際のガラス鋳型に規則構造を導入するために、リソグラフィまたは自己組織化により微細凹凸構造をシリコーン表面に形成し、その形状を水ガラスへ転写することで目的のガラス基板を作成した。こうして得られたガラス鋳型を用いて作成したゲルは、規則的な凹凸を有しており、特徴的な表面構造を有するゲルの摩擦特性を評価することが可能となった。
④水潤滑を発現する機能性分子として、側鎖にオリゴ糖を結合したビニルモノマーを合成した。これを表面開始重合に用いることで親水性ポリマーブラシの調製を試みた。また、上記成果および、公になっていない研究内容の遂行に当り、班内外との連携も強めることができた。
25年度の年次報告書
25年度の実施計画
H24年度は、可逆的に変形可能な微細構造を持つソフトマテリアルを自己組織化技術と微小溝技術に基づき作製できることを確認し、さらに材料の特性に合わせたナノメートルオーダーの表面の改質の可能性を探索した。よって、H25年度は主に、作製した構造に対し、トライボロジー評価とその構造・可変性の相関を調査する。以下に具体的な課題を述べる。
●変形可能な微細構造の作製:特にトライボロジー評価に向けた、ハイドロゲル、エラストマーにおける構造作製を、昨年得られた知見を発展させて行う。
●上記の構造に応力を加えたときの変形量、接触変形性のトライボロジー評価
●上記の構造への表面化学修飾技術の開発とそのトライボロジー特性への効果の評価
●上記①②の構造以外でも、生物や自然界における可変構造の観察などを通じ、実用機能へのデザインへ向けて理解を深める
●上記活動において班間連携に対しても積極的に行う。
25年度の実績報告概要
H25年度の計画は、弾性体であるウェットもしくはドライマテリアルの表面において、微細構造の作製、トライボロジー評価とその表面の化学修飾法の確立であった。これに対し、我々は以下のような検討を行い、次年度に繋がる成果を得た。
① H24年度に確立していた、弾性体としてシリコーンゴム上に形成した、比較的大きな周期の表面座屈構造(リンクル)について、派生的な応用として光拡散機能を評価しスイッチング可能な光拡散装置(反射、透過)として利用できることが分かり、H24の特許出願に続き、論文発表を行った。この構造のトライボロジー試験を進め、摩擦力が凹凸構造の可変性によって20%程度変化出来ることがわかり、論文化を行った(ACS Appl. Mater. Interface 2014)。
②自己組織化高分子微細突起構造を柔らかいゲル中に固定、ゲルを圧縮することで、マイクロスケールの突起構造とサブミリスケールのリンクル構造が組合わさった階層構造が形成されることを見出した。さらにリンクル構造はゲルを圧縮・解放することで可逆的に構造の形成を制御することができ、力学特性も向上することを見出した(論文投稿中)。そのトライボロジー特性(耐性)も向上できると見込まれる。
③均一な凹凸構造を有するハイドロゲルの作成法を確立し、任意にデザインした特徴的な表面構造を有するゲルの摩擦特性の評価を進め、凹凸構造のウェットトライボロジーへの影響を評価した。
④水潤滑を発現する機能性分子として、側鎖にオリゴ糖を結合したビニルモノマーを合成した。これを表面開始重合に用いることで親水性ポリマーブラシの調製法を確立した。
⑤新たな試みとして、生体(特に海洋の)における表面機能を調査するため、研究領域全般と連携し、海洋サンプリングを行い、表面構造観察やトライボロジー評価に資する試料を得る体制を整えた。
また、上記成果および、公になっていない研究内容の遂行に当り、班内外との連携も強めることができた。
26年度の年次報告書
26年度の実施計画
H26年度は主に、作製した構造のトライボロジー評価を様々な状態に拡張し、その構造・可変性の相関を調査する。以下に具体的な課題を述べる。
●変形可能な微細構造の作製:特にトライボロジー評価に向けた、ハイドロゲル、エラストマーにおける構造作製のバリエーションを増やす。
●上記の構造の接触状態や速度に依存したトライボロジー特性の評価
●表面化学修飾を施し上記構造上でのトライボロジー特性の評価
●上記①②の構造以外でも、生物や自然からの可変構造を観察とトライボロジーの評価(海洋フィールドワークによる採集作業も含め)などを通じ、実用機能へのデザインへ向けて理解を深める
●上記活動において班間連携に対しても積極的に行う。
26年度の実績報告概要
平成26年度の計画は、対応する生物学からの知見を得るための調査等に加え、作製した構造のトライボロジー評価を様々な状態に拡張、その構造・可変性の相関を調査、加えて表面材料の海洋付着制御の試みであった。これらに対し以下の検討を行い、次年度に繋がる成果を得た。
1.自己組織化を利用して作製されたピラー構造を柔らかい基材に埋め込むことで、通常のリンクル構造では得られなかった摩擦刺激耐性を有するリンクル構造作製に成功。 2.アルミニウムの薄膜を自己組織化ハニカム構造表面に形成させ、柔らかい基材に埋め込むことで、圧縮ひずみによって表面にリンクル構造を形成、アルミニウムの厚みによってその周期を制御可能とした。 3.ハイドロゲル表面に異方的な溝構造を形成し、表面パターンの有無およびパターンと摩擦運動方向の相関について検討。表面パターンが存在すると水中での摩擦において、運動方向に関係なく摩擦力が上昇することを明らかにした。 4.ポリイミドフィルム表面にポリアニオンをグラフトすることで超親水性フィルムを安定に調製する方法を確立、その親水性シワ表面が防汚性に与える影響を水中油滴接触角測定により評価。また、超親水性表面における水の流体抵抗の評価を、回転レオメーターで試みた。 5.従来試験を行っていたフジツボ幼生に加え、新たに付着珪藻5種についての培養を可能とし、付着珪藻を用いた防汚性能試験体制を整えた。また、班メンバーから提供されたハニカム構造表面やピラー表面への舟形珪藻類の静水下での付着試験を実施、10や15ミクロンの凹凸では問題なく付着珪藻の付着を確認。 6.人工表面構造と生物の構造や機能比較のために、A, B班の連携によって、生物(海洋、昆虫)のサンプリングを行った。今後のサンプル表面状態の観察や物理化学的(トライボロジー)評価に向けたサンプルの取り扱い手法の検討を開始。
27年度の年次報告書
27年度の実施計画
これまでに得られた自己組織化を利用した微細構造作製やトライボロジー能に関する知見をもとに、生物学的な視点から機能性表面の作製を目指す。以下に具体的な研究内容と方法について述べる。
① 動的に表面形状を変形可能なリンクル構造を生物表面、特に魚鱗等のモデルとして利用、表面を海洋生物の粘液模倣高分子ブラシで修飾することで、海洋生物模倣表面を作製する。
② 海洋付着生物学者の野方らを中心に、上記魚鱗模倣表面や種々の自己組織化微細構造における海洋生物、特にフジツボや付着藻類の接着性を調査、海洋生物の付着と微細構造表面の関係性を明らかにしていく。
③ A01-1班(篠原ら)、B01-5班(劉ら)とともに、遊泳性の異なるサメ肌表面の微細構造をナノスーツ法等を駆使して解析し、微細構造と流体抵抗との関係性を明らかにし、低流体抵抗表面の設計指針を得るとともに、生物学への情報のフィードバックも図る。
④ B01-2班(針山ら)とともに、当該班で得られた知見である自己組織化微細構造の形成技術を、無反射表面であるモスアイ構造に適応し、太陽電池の性能向上を検討する。
⑤ B01-3班(穂積ら)とともに溝構造等を利用したウツボカズラ等を模倣した防汚表面を開発する。
上記と平行してA01-1班のデータベースを活用、生物表面の微細構造と機能を調査することで、構造による新たな機能の解明を狙う。また引き続き多様な自己組織化微細構造を作製することで、上記で着目した機能の向上のみならず、データベースから得られた知見に基づく機能性表面の模倣を、自己組織化を利用して速やかに作製できるように準備し、領域全体の多様な状況に応じた戦略的対応ができる体制をとる。
27年度の実績報告概要
平成27年度の計画は、対応する生物学からの知見を得るための調査等に加え、作製した構造のトライボロジー評価を様々な状態に拡張、その構造・可変性の相関を調査、加えて表面材料の海洋付着制御の試みであった。これらに対し以下の検討を行い、最終年度に繋がる成果を得た。
1.自己組織化を利用して作製されたピラー構造を柔らかい基材に埋め込んだシワ構造で、摩擦特性を評価し、構造形成によって接触面積の低下とスリップ現象の小規模化が起こり、その結果、摩擦が15%程度減少することが分かり、摩擦力がスイッチングできる表面を作製に成功した。
2.無電解メッキによりNiPをハニカム表面だけにメッキすることに成功し、その上面をPDMSに包埋、シワの周期制御に成功した。
3.マダシラミの凹凸表面の摩擦と構造との相関性について明らかにした。
4.ハイドロゲル表面にシワ構造の作製に成功し、ウェット系での異方的な摩擦を確認し、潤滑層と構造の関係について知見を得た。
5.親水性粘液で被覆された魚類体表を模倣した表面の構築を目指し、ポリアニオンブラシ固定化ポリイミド薄膜を柔軟なPDMS上に調製し、シワ形成を確認し、摩擦特性の評価を開始した。
6.親水疎水の微細パターンによる新規な毛管的浸透現象を発見した。
7.付着珪藻等を用いた防汚性能試験を行うための、循環水槽系を構築し、流速を画像解析(粒子捕捉法)で評価する方法を確立し、付着性と流れ場の相関を評価する体制を整えた。
8.フジツボ幼生に加え、新たに付着珪藻5種についての培養を可能とし、付着珪藻を用いた防汚性能試験体制を整えた。