B01-4班 過去の年次報告書
24年度の年次報告書
24年度の実施計画
1)植物保護G
・マツの重要害虫であるマツノマダラカミキリと食葉性害虫であるキオビエダシャクを用いて、様々な振動刺激に対する忌避、産卵、摂食等の行動反応と感覚器の生理的特性を解析し、行動・生理反応のメカニズムから行動を制御する振動の特性(周波数、振幅等)を解明する。
・10種のガ類から網羅的にフェロモン受容体遺伝子を単離し、受容体リガンド応答特性を明らかにする。
・昆虫の食害やウイルスの感染に対して誘導されるダイズやイネの反応を代謝物レベル・遺伝子レベルで捉え、品種間における反応の差をLCMSや免疫的手法を用いて定量的に評価する。
・難防除害虫コナダニ類後胴体部腺から分泌される情報化学物質等の生合成経路の解明
2)化学センサG
・社会性昆虫のクロオオアリ触角上の130個の嗅細胞をもつ巣仲間識別化学感覚器を、複合匂い物質の混合パターン識別を可能にする「高炭素世界」の環境化学センサ開発のための生物規範システムとして、作動機序を徹底解明する。
・イモリの嗅覚器で発見した2種類の匂い物質結合タンパクの匂い物質結合選択性の違いについて、その分子基盤をアミノ酸レベルで明らかにする。
・得られた知見をもとに匂い物質結合タンパク質、化学受容タンパク質の利用を念頭に、目的とする化学物質を感知する「生物規範化学センサ」素子をデザインする。
3)極限環境生物G
・マイクロアレイ解析によるストレス誘導遺伝子の網羅的解析を行う。
・メタボローム解析による非タンパク性抗酸化因子を特定する。
・ESTデータベースおよびゲノム情報から乾燥耐性・酸化耐性関連因子を網羅的に検索する。
24年度の実績報告概要
マツノマダラカミキリの行動を制御する振動発生装置を試作し、この装置から振動を与えて摂食阻害と忌避がおこることを室内実験より実証した。10種類のガ類から新たに性フェロモン受容体候補遺伝子を単離した。そのうち2種類の受容体について応答特性解析を実施し、性フェロモン成分に対する応答性を明らかにした。難防除害虫のコナダニ類の後胴体部腺において、動物の酵素としては非常に珍しいΔ12-desaturaseの存在を明らかにした。また、害虫の唾液に対してイネ・ダイズで誘導される代謝物を同定した。ウイルス感受性のインド型品種ハバタキと抵抗性のジャポニカ型品種コシヒカリの間で作成された染色体断片置換系統群の戻し交雑F2集団を用いて、候補遺伝子領域を狭めた。植物保護グループでは、病害虫制御を目指した未開発生物シグナルとなるターゲットが絞り込まれた。
極限生物グループでは、高等生物であるネムリユスリカの幼虫は、ほぼ完全に脱水し無代謝の休眠(クリプトビオシス)をおこなう。
この現象は多細胞生物の分化した細胞および組織が長期間(17年以上)、常温での保存が可能であることを実証している。乾燥耐性に優れたネムリユスリカ胚子由来の培養細胞(Pv11)を用いて、常温乾燥保存技術の開発を行なった。Pv11を高濃度のトレハロース溶液で前処理した後に乾燥し、約200日間デシケーターで保管し、再水和したところ、蘇生率が10%未満と低いものの、その後に増殖を開始した.
化学センサグループでは、イモリの匂い物質結合タンパク質の匂い分子結合性を結合部位の改変によって制御し、結合応答をCaイメージングによって検出、匂いセンサーの受容器周辺環境テストのための嗅電図記録の実験系を立ち上げた。アリでは予想通り約400種類の嗅覚受容体タンパク質候補を見出した。
25年度の年次報告書
25年度の実施計画
1)植物保護G
微弱振動の発生システムを超磁歪素子により構築する。次に、マツノマダラカミキリの忌避・摂食・産卵行動やキオビエダシャクの忌避に与える振動の影響を解析し、行動制御法を確立する。また、主に昆虫生体での性フェロモン受容体の発現様式を調査し、受容体によるフェロモンブレンド需要機構を明らかにする。また、ブレンド需要の分子メカニズムを組み込んだセンサシステムを構築することで、根充整体の性フェロモン需要システムを模倣する。植物関連の研究では、品種間交配実験を進め、食害やウィルス観戦に対する抵抗性関連遺伝子の単離を目指し、常法の遺伝学的解析を用い、抵抗性の遺伝的基板を明らかにする。
2)化学センサG
クロオオアリの化学感覚タンパク質のpH耐性、温度耐性、濃度効果等、化学センサデバイスとしての最適な特質を明らかにする。その一報で、生体イモリの嗅上皮より嗅細胞を単離し、匂い物質やQBPを含む刺激液を短時間与えることで、嗅細胞の応答をパッチクランプまたは吸引電極によって記録する。さらに、適切な「生物規範化学センサ」素子がデザインできるようになったあと、この「生物規範化学センサ」素子を用いた「化学センサデバイス」の作成を行う。
3)極限環境生物G
ネムリユスリカから脚僕膜の保護機能を持つヘムタンパク質の抽出と精製を行う。昆虫培養細胞にストレス耐性関連遺伝子を導入し、ストレス耐性を評価する。また、リジンリッチタンパク質を過剰発現させ、細胞のガラス化を強化する耐性の安定化実験を行う。
25年度の実績報告概要
1)植物保護G
・ヒメアトスカシバで単離した2種類の受容体が性フェロモン成分に特異的に応答することを示し,これら受容体が発現する嗅覚受容細胞の割合がフェロモンブレンドの組成比とほぼ一致することを示した.
・ラミーカミキリの行動反応を引き起こす振動を特定した.この成果より,マツノマダラカミキリも含めたカミキリムシ類害虫に対する行動制御技術の開発を進めた.
更にカミキリムシ類の肢には,接着性剛毛が多数存在することを明らかにした.
・イネ・ダイズのウイルス感受性品種と抵抗性品種の間で作成された染色体断片置換系統群の戻し交雑F3集団を用いて,候補遺伝子領域を限定した.ウイルスの宿主特異的な移行に関与するウイルス遺伝子と重要なアミノ酸残基を特定した
26年度の年次報告書
26年度の実施計画
1)植物保護グループ 超磁歪素振子による振動発生システムを用いて,マツノマダラカミキリの行動制御による防除効果を明らかにする.また,主に昆虫での性フェロモン受容体の発現様式を調査し,受容体によるフェロモンブレンド受容機構を明らかにする.植物関連の研究では,品種交配実験を進め,食害やウイルス感染に対する抵抗性関連遺伝子の単利を目指し,常法の遺伝学的解析を行うことで,抵抗性の遺伝基盤を明らかにする.
2)化学センサグループ クロオオアリの的・味方識別センサの機構を調べ,においの変化・差分検出作用機序の新規なモデルの提出を目指す.特に,受容器周辺タンパク質の関与に注目し,アリの敵・味方識別感覚ユニットを構成する化学感覚子関連分子を探索する.特に,ワーカーに発現量が多い受容体や,触角に多いキャリアープロテインの同定を目指す.アリの触角の情報処理を模倣したアルゴリズム解析も手掛ける.
3)極限環境生物グループ ネムリユスリカから細胞膜の保護機能を持つヘムタンパク質の抽出と精製を行う.昆虫培養細胞にストレス耐性関連遺伝子を導入し,ストレス耐性を評価する.また,リジンリッチタンパク質を過剰発現させ,細胞のガラス化を強化する耐性の安定化実験を行う.
26年度の実績報告概要
昆虫-昆虫相互作用グループでは、フェロモンブレンド受容機構の解明とその数理モデルの構築を目指し、2成分系性フェロモンを利用するガ類を対象に、成分の組成比と受容体発現細胞の比率に相関があることを示した。加えて、3-4成分系の性フェロモンのガ類から、新規性フェロモン受容体を単離した。また、クロオオアリの敵・味方識別センサの3D立体構造をSBF-SEM画像から構築した。新規のサブセルラー構造、すなわち感覚突起状の瘤構造において差分センシング効果を高める感覚相互作用の連絡がある可能性が浮上した。
昆虫/微生物-植物相互作用グループでは、超磁歪素子を用いた振動発生装置をマツ立木に設置し、振動によってマツノマダラカミキリの定着が阻害されること、ジャポニカイネに存在するブロモモザイクウイルス(BMV)抵抗性遺伝子を含む領域を約5万塩基対の領域に絞り込んだ。
極限環境生物グループでは、乾燥耐性に優れたネムリユスリカ由来の培養細胞(Pv11)の常温保存技術を確立した。さらに、Pv11の性状解析を進めながら、その特性(乾燥耐性遺伝子)を利用・模倣し、他の昆虫由来の培養細胞への乾燥耐性の付与実験についても進めている。
27年度の年次報告書
27年度の実施計画
1)昆虫-昆虫相互作用グループ
2成分系の性フェロモンを用いるヒメアトスカシバで、フェロモン成分の比率とそれぞれの受容細胞の比率が同じであることを世界で初めて明らかにした。平成27年度は、3-4成分のフェロモン受容系のガ類を用い、複数成分からなるフェロモン識別機構を一般化する。
多成分系からなるアリの仲間識別気候も調べる。平成28年度には、B01-2班との連携で数学者と協力し、昆虫における多成分の匂い識別機構のアルゴリズム解析を進める。得られる成果は、複数のガス成分検出器等に利用可能と期待される。
2)昆虫/微生物-植物相互作用
昆虫/微生物-植物相互作用グループでは、樹木に振動を与え、マツノマダラカミキリの行動を効果的制御するために、振動発生装置の改良を進める。また昆虫の振動受容器をモデルとした工学的研究への展開のために、振動受容器の細胞レベルの微細構造や物理的特性を明らかにする。イネのウイルス抵抗性に関わる6個の推定遺伝子から標的を決め、感受性のインディカイネに抵抗性を付与する遺伝子を形質転換イネの作出によって特定する。
3)極限環境生物グループ
ネムリユスリカの驚異的な乾燥耐性システムの解析をネムリユスリカ培養細胞のサブセルラーサイズ構造からアプローチし、細胞の常温保存の技術開発の手掛りとする。細胞の常温保存は、農学・医学の応用上、極めて重要である。
27年度の実績報告概要
昆虫-昆虫相互作用グループでは、1)2成分系を利用する他のガ類から新規性フェロモン受容体候補遺伝子を単離した。2)3-4成分系ガ類では、RNAseqの発現量解析により、各性フェロモン受容体候補遺伝子の発現量が異なることを示した。また、多成分分子で構成されるにおいの化学センサ開発を目指した研究においては、3)イモリ由来の匂い分子結合タンパク質(CpLip1)、クロオオアリ由来の化学感覚タンパク質(CSP1)のN,C末端ビオチン化タンパク質の大量発現に成功した。4)クロオオアリのCSPと嗅覚受容体(Or)遺伝子の網羅的同定を完成し、当該感覚子で働く約100種類のOrの絞り込みを行った。これらのOrをそれぞれ擁する100本の受容神経が格納されている当該感覚子において世界で初めて、においセンサ内受容神経ネットワークの存在を示唆する微細立体構造を明らかにした。
昆虫/微生物-植物相互グループでは、5)ジャポニカイネに存在するBrome mosaic virus (BMV)抵抗性遺伝子候補の形質転換イネを作製し、1個が標的遺伝子であることを確認した。6)「振動により害虫を防除する方法」で国内および国際特許を取得した。また、センサーの工学的応用の観点から昆虫の振動受容器がサブセルラー構造のみならず、感覚細胞周囲の外液組成において哺乳動物蝸牛の内リンパ液の組成との類似点を持つことを発見した。7)エリシター処理したイネの代謝物からbeta-phenylalanineを同定した。
極限環境生物グループでは、8)乾燥耐性能力に優れたネムリユスリカ由来の培養細胞(Pv11)の187日間の常温保温に成功し、その後、技術の改良を加え、保存期間の延長(251日)を達成した。