平成25年度の公募研究

浅川 直紀

研究概要

生物は、従来型のコンピュータとは異なり、その感覚神経や中枢神経系において超低消費電力のセンシングや情
報処理を行っている。この驚くべき情報処理は、環境ノイズを巧みに利用することによって実現している。本研
究は、その生物の情報処理機構に倣い、高分子物質の電気物性ゆらぎを積極的に用いたノイズ駆動型の生体型情
報処理デバイスの創製を目指し研究を行う。近年、生体の様々な階層において、ノイズが生体機能の向上に積極
的に用いられていることが明らかとなってきた(確率共鳴現象)。本研究では、閾値がゆらいだ非線形外場応答
性を有するパイ共役系高分子に着目し、その電気物性ゆらぎを用いた確率的閾値素子の開発およびその素子集団
の協同的ダイナミクスを発生・制御し、超低消費電力の生体型情報処理デバイスの実現を材料科学の立場から追
及する。

25年度の実施計画

平成25年度は、ノイズ発生源に適した物質を探索し、確率的閾値素子の開発を行う。物質探索の際には、形
状の大きな変化を伴わない構造相転移やガラス転移に着目し、その転移と、巨視的な電気物性との相関が大きな
物質を探索する。特に、室温付近での秩序-無秩序相転移やツイストガラス転移を有するパイ共役系高分子であ
るポリアルキルチオフェンが有力候補である。確率的素子の開発の達成度を見極めつつ、試作される素子を基に
、ノイズ駆動センサおよびノイズ駆動スイッチの開発に着手する。両者はいずれも確率的閾値素子から作製可能
であり、技術課題が共通している。具体的には、抵抗加熱式真空蒸着法により金属電極を、スピンコート法等に
より高分子薄膜を作製し、ガラス基板または、シリコン基板上に素子を作製する。素子の電気特性は、ソース・
メジャーメントメータやLCR メータにより、本年度購入予定のターボ分子ポンプを装着した真空チャンバーを用
いて行う。適宜、プラズマ処理や化学的処理により基板表面のぬれ性を制御しつつデバイス素子の作製を試みる

本研究が考案する生体型情報処理デバイスの基本素子である「確率的閾値素子」は構成的に二つの世代に分け
られる。第一世代素子は、(i) ノイズ発生部と(ii) 閾値判断部から構成される。ノイズ発生部には、パイ共役
系高分子の室温付近での秩序無秩序相転移やツイストガラス転移といった熱異常点の近傍での大きな時空間ゆら
ぎを用いる。また、閾値判断部には、パイ共役系高分子の非線形電場応答特性を用いる。パイ共役系高分子を用
いる利点は、ノイズ発生と非線形電場応答性の二つの特性を同時に持ち合わせることが可能と予想される点であ
る。

ページの先頭へ戻る