平成25年度の公募研究

出口 茂

研究概要

バイオクレプティックスとは2005年に考案された造語で、“a biological reagent is used to aid a syntheti
c process”と定義される。これまでにも人類は、地球の生態系を支配する微生物の機能を利用して発酵食品な
どのバイオクレプティックスを開発してきた。化石燃料の枯渇や地球温暖化などの諸問題に対処するために従来
技術からのパラダイムシフトが求められる今日では、バイオクレプティックスの重要性はますます高まっている
。本研究は「サブセルラー・サイズ構造」を有する材料が生物資源の機能・有用性に学んだ新しいバイオクレプ
ティックスの創出に真に有用であることを示すことを目的とする。具体的には、材料科学を利用した微生物機能
のセンシング技術を確立し、セルロース系バイオマスからのバイオリファイナリーに資する生体触媒の高性能化
に向けた分子設計指針を得る。

25年度の実施計画

申請者らはSPOT(Surface Pitting On nanofibrous maTrix)と呼ばれる、従来法とは異なる原理に基づいたセ
ルラーゼ活性のセンシング手法を開発した。本手法はセルロースナノファイバーからなるヒドロゲルを基質に用
い、ゲル表面に数十pLのセルラーゼ溶液を滴下した際に加水分解によって形成されるピットの体積を指標として
セルロースの酵素加水分解をセンシングする。
1)SPOTによるセルラーゼ活性検出機構の解明
セルラーゼによってセルロースゲル表面にピットが形成されるダイナミクスは、ナノファイバーの酵素加水分解
速度、ゲル内の酵素の拡散、酵素/セルロース間の吸着・脱着平衡等で決まると考えられる。この機構を解明で
きれば、セルラーゼの活性・拡散挙動・セルロース表面への親和性などの多彩な情報をSPOTで測定可能となる。
そこでセルラーゼを用いたモデル実験系を確立し、ピット形成ダイナミクスを測定する。実験はセルロースゲル
表面にインクジェット装置を用いて数十pLのセルラーゼ溶液を滴下した後、加水分解反応の進行に伴って形成さ
れるピットの体積を経時的に精密測定することで行う。また並行して、上記の3要素を考慮したピット形成ダイ
ナミクスを記述するモデルを構築する。
2)SPOTの一般化・発展的応用
水に不溶なセルロース基質の加水分解に伴う体積減少を測定するというSPOTの測定原理は、水に不溶な基質に作
用する酵素全般に適応可能である。そこでSPOTによるキチナーゼの活性測定、プロテアーゼの活性測定、アガラ
ーゼの活性測定などを行い、手法の一般化を図る。
3)SPOTを利用した生物資源の開拓
深度200 m以深の深海は太陽光が到達しない漆黒の世界であり生物生産性が低い。しかしながらSPOTを応用した
申請者らの研究で、暗黒の深海にもセルロース分解菌が多数生息していることが明らかになりつつ有る。深海環
境に適応した微生物は、少ないセルロースを効率良く利用するために、陸上の微生物とは異なる独自のセルロー
ス分解メカニズムを獲得している可能性が高い。そこでこれまでに分離に成功した深海由来微生物のセルラーゼ
を対象に、菌株の大量培養と酵素の精製・特性化、ならびにゲノム情報を利用したセルラーゼ遺伝子のクローニ
ングを行い、深海微生物由来セルラーゼに固有のセルロース分解機構を解明する。

ページの先頭へ戻る