【2014. 9. 25】第63回高分子討論会 2日目 活動報告
2014年09月25日
日時:2014. 9. 24-26
場所:長崎県
C01班 新潟大学工学部 山内 健
第63回高分子討論会 2日目
S18 生物模倣による新規機能性材料・次世代型プロセスの創成 報告
2日目は、本特設テーマのキーワードの一つである「材料科学と生物学の有機的な融合」について、基調講演としてナノテクノロジーと細胞工学の融合に関する講演があり、基調講演とともに①材料工学の視点で捉えた微細構造制御とバイオミメティックス、②生物工学の視点で捉えた微細構造制御とバイオミメティックス、③生物機能の工学技術への移転、④バイオミメティックス情報の活用法についての研究発表が行われ、活発な議論が展開された。それぞれについて報告する。
基調講演
「ナノインプリントによる微細構造形成と生体模倣との接点」宮内 昭浩氏(日立)
日立製作所の宮内氏から、「ナノインプリントによる微細構造形成と生物模倣との接点」という演題で、ナノインプリントの基礎から最新研究の動向、ナノインプリントで形成できる微細構造、自然界に存在する生物表面との類似性についての説明があった。蓮の葉、ヤモリの足、ガの眼の構造とナノインプリント材料の比較をはじめ、ナノピラー上で培養した肝細胞が細胞塊を形成し、代謝反応を発現する研究例などの紹介があった。細胞の周りには細胞があることを理解しながら現象を見つめないと本質が分からないとう話が印象的だった。
①材料工学の視点で捉えた微細構造制御とバイオミメティックス
「バイオテンプレート法により作製した金属マイクロコイルの構造特異的機能」鎌田 香織氏(JST-ERATO彌田超集積材料プロ)
直径40μm程度の光合成らせん藻類をテンプレートに金属マイクロコイルを創製することに成功し、さらにマイクロコイルの配向分散シートも開発していた。
「ポリアミン系架橋化ゲルの構造設計とテンプレート機能」相馬 大貴氏(神奈川大工)
数億年前に誕生したバイオシリカがポリアミンを巧みに利用して美しいマイクロ構造のシリカを形成することに着目して、ポリアミン系架橋ゲルを合成し、その構造の同定と結晶挙動について研究していた。このゲルを反応場としたシリカ複合体の合成も検討していた。高規則性ポーラスアルミナを用いたナノ「インプリントプロセスによるモスアイ構造の形成」柳下 崇氏(首都大都市環境)
陽極酸化と口径拡大処理により高機能性ポーラスシリカアルミナを作製し、このアルミナ用いたナノインプリントプロセスで、モスアイ構造の形成を行っていた。この手法を用いることで簡便なプロセスで、シームレスな大面積モスアイ構造の作製が可能となった。
②生物工学の視点で捉えた微細構造制御とバイオミメティックス
「ナノスーツ-薄膜重合による高真空と大気における生命維持」針山 孝彦氏(浜松医大)
「生きている生物を電子顕微鏡で見てみたい」という研究原点の話からはじまり、ナノスーツ法という高真空下で生きたまま生物を観察できる画期的な生物観察法の説明と観察結果に関する報告があった。界面活性剤Tween20を塗布して、電子線やプラズマ照射により薄膜を形成するという簡便な手法で、様々な生物体の観察映像の紹介があった。
「カーボンナノマテリアルを複合した両親媒性分子のプラズマ重合薄膜の光発熱特性」柴垣 秀人氏(名工大院工)
ナノスーツの機能化のため、Tween20に機能性ナノ物質を導入することを目的として、カーボンナノマテリアルを複合した両親媒性分子のプラズマ重合の作製とその光熱特性について検討していた。カーボンナノホーンを複合することで、ナノスーツは近赤外線照射で、表面温度を制御できることが報告されていた。
「蝶の鱗粉のジャイロイド構造:配向特性と偏光特性」吉岡 伸也氏(阪大生命機能)
マエモンジャコウアゲハの鱗粉がジャイロ構造であることに着目して、コンピュータモデリングや3Dプリンターを利用することで、優れた配向特性や偏光特性を有する材料を開発していた。
③生物機能の工学技術への移転
「高分子ダイナミクスを用いた生体模倣型信号処理デバイス」浅川 直紀氏(群馬大理工)
工学的視点から生き物がノイズを利用する仕組み「確立共鳴」に着目して、π共役高分子による生体模倣型信号処理デバイスを開発していた。閾値がゆらいだ非線形外場応答特性を有するπ共役高分子の電気物性ゆらぎを用いることで、確率的閾値素子の開発が可能であることが示されていた。
「細胞メカニクス・システム:アクティブタッチによる基質の硬さ感知」小林 剛氏(名大院医)
生物工学の視点で細胞の運動性を評価する研究報告で、細胞が硬さを感知して移動すること、内部因子群が運動特性を設定していることなど、生物の運動機能を精巧に解析することで、生命活動を理解する取組が報告された。特に機械刺激受容(MS)チャンネルの有用性が報告されていた。
「細胞運動表現型診断のための微視的培養力学場」戸秋 悟氏(九大先導研)
運動中の接着細胞in situで直接識別し、分離するという新しいタイプの細胞クロマトグラフィーに関する報告を行っていた。細胞の種類によって基材表面の硬領域を指向する走性(メカノ・タクティクス)は異なることを明らかにし、この特性を利用した細胞の運動中での直接分離が可能であることが示されていた。
「カミキリムシにおける振動情報の機能解明と害虫防除への応用」高梨 琢磨氏(森林総研)
生物の重要な交信手段である振動のうち、固体を伝わる振動に着目して、生物の忌避を行う取り組みについて、報告していた。ラミーカミキリムシとマツノマダラカミキリムシの振動情報を解明し、高出力の振動発生装置を用いて、松の木からマツノマダラカミキリムシを害虫防除に成功した例などの報告があった。
「高分子からアプローチするバイオクレプティクス」出口 茂氏(海洋機構)
セルラーゼ活性を超高感度でセンシングできる手法を確立し、深海生育するセルラーゼ生産菌を分離することに成功していた。陸上生物とのセルロース分解メカニズムの違いなどを検討中とのことであった。特異的な環境に生存する生物に学ぶこともバイオミメティックスならではの発想であることを再認識できた。
「フナムシのオープン流路構造を模倣した安全装置をもつ微小流路」石井 大佑氏(名工大若手イノベータセ)
水を主成分とする生命体においては、流体を利用した高性能な仕組みが多くみられる。本研究では、フナ虫が水を体内で輸送する仕組みを観察することで、安全装置の存在を見出し、この安全装置を再現することで、効率的に溶媒を垂直に輸送するバイオミメティック材料を開発していた。
「木の導管構造を模倣したゲルキャピラリによる液体の長距離輸送」菅谷 幸平氏(名工大院工)
毛細管現象と浸透圧に着目して、木の道管が水を輸送する仕組みを学ぶことで、ゲルを用いて道管を模倣した新規な長距離液体輸送システムを開発していた。
④バイオミメティックス情報の活用法
「昆虫の微細構造の観察からバイオミメティクス研究基盤の創成へ」○野村 周平氏(国立科博)
昆虫インベントリー、特に走査型電子顕微鏡の画像からの発想想起について報告があった。いろいろな昆虫のモスアイ構造の説明から、生物の分類、生態キーワード、生育環境など28項目を網羅しているインベントリー情報まで幅広く概説していた。
「バイオミメティクス・データ検索基盤と新材料開発」長谷山 美紀氏(北大院情報 )
ビッグデータの活用という観点で、生物と材料についての様々な画像情報を取り込んだデータベースから、類似画像を検索する手法についての説明があった。思いがけない情報の獲得が可能であり、さらにバイオミメティックスに関する工学的「気づき」の想起が可能であることを材料開発例も示しながら説明されていた。
「バイオTRIZを利用したソフトマテリアルの表面加工」山内 健氏(新潟大工)
TRIZという技術矛盾を解決するためのツールをバイオミメティックスに導入したバイオTRIZという手法について、製品化のための道筋を交えて解説していた。