【2013. 11. 22】日本油化学会オレオナノサイエンスシン部会 オレオナノサイエンスシンポジウム2013 -生物に学ぶ生体界面科学-
2013年11月22日
日時:2013. 11. 22
場所:東京都 東京理科大学 森戸記念館
主催:日本油化学会 オレオナノサイエンス部会
共催:科学研究費新学術領域「生物規範工学」、JST戦略的創造研究推進事業
協賛(予定):化学工学会、高分子学会、色材協会、日本化学会、日本塗装技術協会、日本分析化学会、日本膜学会、日本薬学会、日本レオロジー学会、界面動電現象研究会、筑波大学生物資源コロイド工学リサーチユニット
会期:2013年11月22日(金)
会場:東京理科大学 森戸記念館(東京都新宿区神楽坂4-2-2)
自然界において微生物、植物、昆虫などあらゆる生物は長い時間をかけ環境に適応し進化し、固有のアイデンティティーを確立しています。そこに関わる問題として、特にナノからミクロンにいたるスケールで生じる動的なコロイド界面現象は重要ですが、その実態にはまだ明らかでないことが数多く隠されています。また、このような環境に適応する生物の機能を材料設計に生かすバイオミメティクスは、欧米を中心に長い研究の歴史があり、その分野が定着していますが、日本においては今後どのように展開するか非常にタイムリーな議題となっています。
本シンポジウムでは、生物の関わるコロイド界面現象にスポットをあて、身近な生物の生活史の探索やバイオミメティク材料の成功例を紹介し、その理解を深めます。また、より具体的な視点として、「水と界面」を主題にすることを提案し、吸水、乾燥、濡れ、生体材料、表面張力などに関わる現象を、生物、物理、材料、観察、実装技術などの多様な観点から捉え、バイオミメティクスの可能性を探りたいと思います。
プログラム
09:20
開場
10:00-10:10
開会の挨拶 牧野公子(オレオナノサイエンス部会 部会長)
進行 足立泰久、舘野正樹
10:10-10:40
「生体界面と水」に学ぶエンジニアリング:フナムシのバイオミメティクス
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 下村政嗣
バイオミメティクスの現代的意義は、生物機能発現が人間の技術体系とは異なる作動原理に基づくことに着目し、技術革新をもたらすパラダイムシフトを得ることにある。本講演では、フナムシの吸水機構を解明することで、MEMS等に応用できる新しい水操作デバイスの開発について紹介する。
10:40-11:20
樹木の組織・構造と水分通導-病原微生物はどのように水の流れを止めるのか-
神戸大学 農学部 黒田慶子
樹木は直径30~300μm程度の管状中空の通導組織を通じて水を揚げる。葉からの蒸散によって館内の水柱に発生した張力(tension)と水分子間の水素結合により、水は梢端まで引き上げられる。日中に張力が強くなりすぎると水柱に気泡が発生(embolism)し、通導組織の排水(cavitation)が起こるが、健全木では夜間や降雨時に水が再流入し、極端な渇水でなければ通導は継続する。一方、微生物によって通導システムに不具合が起こる「萎凋病」がある。マツ材線虫病(マツ枯れ、松食い虫)では、病原線虫がマツの生細胞を刺激しながら組織内を移動するのに伴って、周囲の通導組織でcavitationが発生する。夜間に水の再流入のない回復不能な現象であり、感染木は水分欠乏のため数週間~2ヵ月ほどで枯死する。
マツ材線虫感染木の細胞では、感染数日後からテルペン類の生産が増加し、それが細胞外つまり通導組織内に放出される状況が観察される。通導組織内の水に表面張力の低い物質を加えると、容易にembolismが起こることが知られており、マツの通導組織の水に混入したモノテルペン等の代謝物がembolismの発生に関わるのではないかと推測される。また、疎水性のテルペン類が毛管の内壁に付着することで、排水後の水の再流入を阻害している可能性が示唆される。
11:20-12:00
テクスチャー表面上での水:濡れの物理と制御
お茶の水女子大学 理学部 奥村 剛
最近、我々のグループでは、実験と理論の同時進行によって、濡れ・バブル・滴の動力学に関するスケーリング法則を発見してきている。最近発見したテクスチャー表面の濡れに関する法則も紹介し、現在取り組んでいる関連研究についての話も交えながら、どのような戦略で我々が法則を発見してきたのかを説明する。さらに、このようなシンプルな法則が濡れの制御にどのように役立ち得るのかについての可能性について議論する。
昼食
進行 市川創作、下澤楯夫
13:00-13:40
極限的な乾燥耐性をもつネムリユスリカから学ぶ:耐性の分子機構
農業生物資源研究所 奥田 隆
多くの生物にとって生体水の50%以上の脱水は致命的である。一方で、生体水のほとんどを失っても致死しない驚異的な乾燥耐性能力をもつ生物も存在する。この無代謝での乾燥状態での生命(休眠)現象はクリプトビオシスと呼ばれ、300年もの昔から知られているが、その仕組みはよくわかっていない。我々はクリプトビオシスする生物で最も高等で大型なネムリユスリカを用いてその極限的な乾燥耐性の分子機構の解明を進めている。ネムリユスリカ幼虫を急速に乾燥させると致死するが48時間以上かけてゆっくり乾燥させた幼虫は再水和後にすべてが蘇生する。脱水が始まってから乾燥するまでの48時間に、水に代わる適合溶質としてトレハロースと脱水に伴うタンパク質の凝集変成の阻止を担うLEAタンパク質が大量に作られる。体内の水や酸素の動きの制御に関わるアクアポリンやヘモグロビン遺伝子のいくつかは乾燥ストレス特異的に発現していた。最近、脱水や再水和に伴って生じる酸化ストレスによって幼虫の生体分子、DNA等に損傷が生じていること、同時に抗酸化やDNA修復に関わる遺伝子も数多く発現していることもわかってきた。将来期待される細胞や組織の常温保存技術の可能性についても紹介したい。
13:40-14:20
ナノスーツ:電子顕微鏡による“生態”観察
浜松医科大学 医学部 針山孝彦
高解像・高倍で観察することが可能な走査型電子顕微鏡内では、高真空を維持しなければならないため、生体を直接観察することは不可能だった。われわれは、一部の生物がもつ表面物質が、電子線重合あるいはプラズマ重合によってナノレベルの薄膜を形成することにより高真空内で生体内の液やガスの放出を防ぐことを発見し、ナノスーツと命名した。その生物を規範とするバイオミメティックス研究により、多くの生物にナノスーツの装着を可能にし、生きたままの生物の動き、つまり“生態”を電子顕微鏡内で観察できるようになった。
14:20-15:00
バイオフィルム:微生物は何故集団で暮らすのか
筑波大学 生命環境系 野村暢彦
微生物研究の標準的手法として、単離した細胞を純粋培養して解析する方法がある。しかし、実際の環境中で見出されるほとんどの微生物は何か担体(表面)あるいは微生物同士で付着し、集団状態つまりバイオフィルムの相のなかで生活している。バイオフィルムの形成は例えば抗生物質耐性などに有利に作用するが、バイオフィルム内部では細胞同士の密接な利害関係があり、細胞同士はお互いに物質を出したり、受けたりしながらコミュニケーションをとっている。その意味からバイオフィルムは情報伝達を伴うソフト界面とみなすことができる。講演では、クォラムセンシングと呼ばれる細胞間情報伝達を中心にバイオフィルムの中で生じている現象とその意味について解説する。
休憩
進行 中村一穂、辻井 薫
15:20-16:00
生体に学ぶ:人工赤血球とハイドロゲルニッチの設計の試み
東京大学 医学系研究科 疾患生命工学センター 伊藤大知
再生医療や薬物送達などの医用工学分野、バイオマテリアル分野においては、生体システムや生体材料に学んで設計を行うことは非常に有効である。本講演では、再生医療で重要である酸素運搬を担う人工酸素運搬体の赤血球に学んだ設計、そしてオステオポンチンなどの徐放性接着分子に学んだ、細胞封入クリックカプセルの創製について講演する。
16:00-16:40
表面張力を使った自己組織化実装技術
パナソニック株式会社 先端技術研究所 中川 徹
水面に落ちた小さな虫は、そこからなかなか脱出できない。これは、小さな物体に働く液体の表面張力が重力よりもずっと大きくなることに起因する。本講演では、液体の表面張力をうまくコントロールすることで、μm~mmの大きさの物体を多数個、同時に、所定の位置に正確に実装できることを示す。
16:40-18:00
パネルディスカッション
モデレーター:下村政嗣
パネラー:講師の先生方
コメンテーター:下澤楯夫(北海道大学名誉教授)、辻井 薫(中央大学)、舘野正樹(東京大学理学系付属植物園)
http://www.jocs.jp/olnano/