平成26年度の公募研究

浅川 直紀

研究概要

生物は、従来型のコンピュータとは異なり、その感覚神経や中枢神経系において超低消費電力のセンシングや情
報処理を行っている。この驚くべき情報処理は、環境ノイズを巧みに利用することによって実現している。本研
究は、その生物の情報処理機構に倣い、高分子物質の電気物性ゆらぎを積極的に用いたノイズ駆動型の生体型情
報処理デバイスの創製を目指し研究を行う。近年、生体の様々な階層において、ノイズが生体機能の向上に積極
的に用いられていることが明らかとなってきた(確率共鳴現象)。本研究では、閾値がゆらいだ非線形外場応答
性を有するパイ共役系高分子に着目し、その電気物性ゆらぎを用いた確率的閾値素子の開発およびその素子集団
の協同的ダイナミクスを発生・制御し、超低消費電力の生体型情報処理デバイスの実現を材料科学の立場から追
及する。

26年度の実施計画

前年度に引き続き、ノイズ発生源の物質探索と確率的閾値素子の開発を行い、確率的閾値素子の作製とその周辺
技術を確立する。さらに、確率的閾値素子を用いたノイズ駆動センサおよびノイズ駆動スイッチの開発を行う。
具体的には、複数の素子から成る回路に必要な電極を金属マスクを用いた真空蒸着法により作製し、センサおよびスイッチの電気的特性を調べる。以上の研究課題と並行して、確率的閾値素子に一方向信号伝達性能を付与するために、(i)確率的電界効果トランジスタ(FET)と(ii)確率的光電変換性能を有する確率的フォトカプラの開発を行う。FETの開発では絶縁膜の開発がキーとなることが多いが、本研究では、確率的動作の発現にも注力する。確率的フォトカプラは、高分子エレクトロルミネセンス(EL)素子と光起電力(PV)素子から構成され、FETの場合と同様に、確率的挙動の発現に注力する。これらのデバイス素子が確率的挙動を示すために、薄膜を金属電極でサンドイッチした縦型素子の場合にしばしば観測される負性抵抗性を伴ったスイッチング現象に注目する。
より具体的には、EL素子としては、ポリフルオレン(PFO)系のものを考えている。PFOは熱処理や溶媒アニーリング処理によってalpha相、beta相、ネマティック(N)相、非晶の各状態を作製可能である。各相を用いた素子に対して、スイッチング現象の準確率性の有無を検証し、不安定な挙動を積極的に用いたEL素子を開発する。一方、PV素子にはポリアルキルチオフェ(P3AT)系とフラーレン誘導体を用いた典型的なバルクヘテロジャンクション型のものを予定している。P3HT以外のP3ATは従来の意味での太陽電池の光電変換効率は劣るが、光電変換効率の確率性という新たな観点からは魅力ある物質系であると考えられる。本研究では、このような確率的な光電変換効率を有するPV 素子の研究開発も併せて行う。上述のEL素子とPV素子のいずれかまたは一方の素子が確率的挙動を示すことができれば、確率的なフォトカプラの実現が可能となり、一方向信号伝達性能を有するシナプス模倣素子の実現が可能となる。以上の研究を行い、平成26年度は最終年度として研究全体の総括を行う。

ページの先頭へ戻る