平成26年度の公募研究

田中 博人

研究概要

近年、ディスプレイや太陽電池など様々なデバイスがフィルム化され柔軟性を謳い始めている。ところがこれら
は曲げに対して柔軟であっても面としては伸縮しないため、実際には 3 次元曲面に沿った自由変形はできない
。一方、自然界の鳥の羽根や昆虫の翅は羽ばたき運動に耐える剛性を持ちながらも軽量で柔軟かつ伸縮可能であ
る。これはマルチスケールな「枝分かれ構造」と「シワ構造」によって局所的な曲げ変形で面としての伸縮を実
現しているからである。そこで本研究では、飛行生物の翼の「枝分かれ・シワ構造」を規範とした柔軟かつ伸縮
可能なフィルムの製作方法と設計指針を確立する。
しわの形状の実現方法として、シワの自己組織化を利用する。これは、皮膚のような2層構造を面内で圧縮変形
させると表面に自己組織化的にしわが生じる現象である。これにより、マイクロスケールの微小なしわを大きな
面内に瞬時に形成することができる。

26年度の実施計画

平成26年度は、2層構造表面上に自己組織化的に発生させたシワ形状を、パリレンフィルムに転写する基本プ
ロセスを確立した。また、1方向に配向したシワを転写したパリレンフィルムの引張試験を行い、シワに対する
引張方向によって引張弾性率が数倍変化することを確認した。本年度の研究計画は以下の通りである。
1.曲げ剛性計測:1方向に配向させたシワを転写したパリレンフィルムを用いて曲げ剛性計測試験を行い、シ
ワがフィルムの曲げ剛性に与える影響を調べる。
2.シワの波長と波高の制御:自己組織化シワの波長と振幅は2層構造のヤング率と圧縮量に依存する。様々な
大きさのシワを持つフィルムを実際に製作し、本プロセスで実現可能なシワフィルムの機械特性範囲を明らかに
、それを拡大する方法を考案する。特に引張弾性率を大きく減少させて顕著な伸縮性を実現することを目指す。
3.多方向シワを有するフィルムの製作:2層構造を多方向から圧縮して生じるシワをフィルムに転写すること
で、各方向に対して異なる機械特性を有するシワフィルムを製作する。これによって3次元的に変形可能なシワ
フィルムを実現する。
4.フレーム構造との一体化:シワフィルムとフレームを一体化することで一定の形状を保持し、自立したデバ
イスとして利用可能とするプロセスを実現する。フレームはある程度の柔軟性を有するように、炭素繊維強化プ
ラスチックやプラスチックを用いる。一体化の手法として、位置合わせしたフィルムとフレームを熱プレスによ
って接着する手法を用いる。これによって高精度かつ再現性のある一体化を目指す。

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