前田 義昌
研究概要
珪藻は地球上のあらゆる水圏環境に適応し、20万種以上の多様性を有する、最も繁栄した生物の一つである。しかし、珪藻は積極的な運動性を示さないため、多くの微生物が限られた栄養源を奪い合う天然環境において、必ずしも有利ではない。では、なぜ珪藻は優先的に増殖し、繁栄することができるのか?この問いに対して、近年、珪藻の細胞壁(珪殻)が持つ階層的な微細構造が物質拡散方向を制御して、栄養源の取り込みに寄与しているのではないかという仮説が提唱されている。しかし、どのような微細構造がその機能を生み出しているかは全く不明である。そこで本研究では、珪殻が生み出す物質拡散制御機能のメカニズムを解明し、物質を一定方向に拡散させることのできる微細構造の特定を目指す。物質拡散制御機能を有する珪殻模倣材料を開発することができれば、栄養輸送能力の高い細胞培養用固体培地やイオン輸送効率の高い電池材料など、様々な応用が期待される。
27年度の実施計画
本研究では、遺伝子組み換え技術を用いて珪殻表面に無機結晶の成長を促すペプチド(バイオミネラリゼーションペプチド)をディスプレイする。ここに無機イオン前駆体を加えると、珪殻表面上において無機結晶の合成が可能となる。得られる結晶のサイズや、成長する結晶面は、珪殻微細構造内部における無機イオン前駆体の拡散様式に依存して変化すると考えられる。この結晶のサイズや成長する結晶面を指標に、前駆体の拡散状態を解析する。平成27年度は以下の二項目を中心に研究を進める。
(1) 珪殻上でのバイオミネラリゼーションペプチドの発現
珪殻上にZnOの結晶化を促すにバイオミネラリゼーションペプチドなどを固定化する。その際、遺伝子組み換え技術を用い、珪殻の全てのシリカ質の部分に分布しているネイティブなタンパク質(珪殻タンパク質)に融合する形で発現する。これにより、珪殻内のいかなる微細な空間にもバイオミネラリゼーションペプチドを導入することができると考えられる。
(2)珪殻の微細構造内におけるZnO結晶化
珪殻でバイオミネラリゼーションペプチドを発現した組み換え珪藻にZnO結晶の前駆体となる硝酸亜鉛溶液を加え、ZnO結晶化を促す。平成27年度では、まず結晶化が生じたことを確認するために、硝酸亜鉛溶液と反応した組み換え珪藻細胞を粉末X線回折法で解析する。また、ZnO以外の結晶化(AuやTiO2など)を促すペプチドについても同様の実験を行い、その効果を検証する。