平成27年度の公募研究

安井 隆雄

研究概要

2013年にクランガーゼミというセミの翅は、物理的な構造だけで細菌を殺すことが可能であるということが発見された。このような物理的な構造で殺菌作用を持つ天然の表面構造が発見されたのは世界初のことである。本研究では、(1)クランガーゼミの翅がナノメートルスケールでどのように機能しているのかを解明し、(2)このセミの翅の物理的防御という特性を再現するナノデバイスを創製する。本研究の目的は、セミの翅の物理的防御機構を解明することによって、“生物のユニークな技術体系”を明らかにするとともに、セミの翅の物理的防御機構を模倣することによって生物多様性に学ぶ材料・デバイスの戦略的設計・作製を実現することにある。また、本提案にて創製する新規ナノデバイスは、バスの手すりのような公共の場で病原体のすみかになっている場所の表面素材への応用や、医療現場での滅菌素材の開発等、新産業技術・革新医療技術の創出に極めて大きな波及効果をもたらすと考えられる。

27年度の実施計画

平成27年度は、セミの翅の表面構造の物理的防御機構を解明するために、新規ナノデバイスの試作・検討を進める。セミの翅の物理的防御機構を解明するための新規ナノデバイスのナノ構造体には、これまで開発してきた様々なナノ構造体を使用する。しかし、これらナノ構造体においては計測対象に応じた構造体の作製を行ってきたため、作製されたナノ構造体が体系化されていない。そのため、ナノ構造体と細胞破砕メカニズムを体系的に理解することが困難である。そこで本年度は、(1)ナノ構造体の直径・長さ・アスペクト比・間隔・配置パターンの物理的要因と、(2)ナノ構造体の材料・表面特性・表面への官能基付与の化学的要因を体系的に解明することを目的とする。(1)の課題においては、これまでに開発したナノ構造体を規則正しく配置したパターンや乱雑に配置したパターン、乱雑なナノ構造体群をアレイ状に規則正しく配置したパターンに加え、ナノ構造体の直径・長さ・アスペクト比・間隔の物理的要因が破砕に及ぼす影響を検討する。(2)の課題においては、これまでに開発した様々な材料でできたナノ構造体の細胞破砕への影響を始めとして、親水性・疎水性ナノ構造体等の表面特性の細胞破砕への影響、ナノ構造体に付与した官能基の細胞破砕への影響を検討する。最終的には、細胞破砕に対する物理的要因と化学的要因を体系化することで、セミの翅の表面構造の物理的防御機構の解明を行う。

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