山本 拓矢
研究概要
過去に我々は、環状高分子から成るミセルが、対応する直鎖状高分子ミセルよりも構造安定性が遙かに優れていることを見出した。本研究では、合成高分子を利用し好熱菌細胞膜の単純化モデル(ベシクル)を構築する。それを利用し、生体という複雑系を用いた実験では困難な、環状構造が熱安定性へ寄与するメカニズムを解き明かす。さらに、そのメカニズムと実験を通して得られる種々の知見に基づき、環状高分子が形成する自己組織化構造を新奇高分子機能材料の開発へと展開する。これは、今までにない高分子トポロジーと自己組織化の融合という新しいコンセプトを材料設計に導入するものである。すなわち、本研究は生命科学、高分子科学、超分子化学の複合による学際的分野の設立を目指し、新奇機能材料の創出へつなげるものである。
27年度の実施計画
まず、これまでに確立した合成法に対し新たな精製法を適用し、高純度の環状および対応する直鎖状ブロック共重合体を準備する。次に、これらを用いてベシクルの構築を検討する。このように作製された環状高分子ベシクルは、二分子膜が球状に閉じた構造を持ち、細胞膜構造の理想的なモデルになると考えられる。これらの環状および対応する直鎖状高分子ベシクルの基礎物性(粒径・会合数など)に加えて、耐熱性・耐塩性を調査する。さらに、二分子膜中にプローブ分子を導入することで、膜の安定性に対する効果および膜分子の交換速度や流動性を調査する。このようにして、好熱菌細胞膜の耐熱メカニズムの解明を行う。また、ベシクル内部にゲスト分子を導入することで、ドラッグデリバリーシステムの薬物担体の開発を目指した研究を行う。