平成27年度の公募研究

椿 玲未

研究概要

海洋では、海底の岩などに引っ付いて暮らす固着生物が優占する。固着生物の多くはプランクトン幼生として海中を浮遊する時期を持つが、海底に定着した後は移動能力を失い、水中の有機物を濾し取って食べるようになる。そのような食性を持つ動物は濾過食者と呼ばれ、「移動せずにその場でうまく餌を採る機能」を持っている。海綿動物(以下、「カイメン」)もそのような濾過食者のひとつだが、とりわけ特異な濾過食形態を持つ。カイメンの体内には網の目のような水路(水溝系)がびっしりと張り巡らされており、体内の襟細胞の鞭毛の運動によって水路に海水を取り込み、海水中の有機物を濾しとって餌としているカイメンの水溝系は非常に複雑な立体構造を持つため計測や解析が難しく、詳細な構造についての知見は未だ乏しい。しかしカイメンは、水溝系以外に栄養やガスを体内に配分する効率的なシステムを持っていないことから、その構造と機能の解明は、人工的な流体輸送システムを設計する上でも重要な示唆をもたらすと期待される。
そこで本研究では、カイメンの水溝系を自律型の水輸送ネットワークと捉え、生物学にとどまらず物理学および数理科学的なアプローチも導入しカイメンの水溝系の構造と機能を明らかにすることを目的とする。

27年度の実施計画

1.水溝系の三次元構造の撮像方法の確立
予備実験において、カイメンの水路の内部の流速はMRI装置でPhase Contrast法を用いた計算から求められることが確かめられている。そこでまず生きた状態のカイメンをMRI装置で撮像し、水路内の水流の有無及び主要な太い水路内の流速を計測する。次にそのMRI撮像個体を固定し、マイクロフォーカスX線CT装置を用いてより詳細な立体構造を明らかにする。MRIはマイクロCTに比べ解像度はかなり劣るが、主要な太い水路を基準とすれば、異なる2通りの方法から得られた三次元構築像の位置合わせが可能となるだろう。この画像アライメント法を開発し、水溝系の解析法を確立する。また、マイクロCTでの撮像に最適な固定方法も模索する。これまでに凍結乾燥法と、水路に樹脂を流し込む型取り法での撮像には成功しているが、これらの方法では構造の破壊がどの程度起こっているのかは不明なので、造影剤を用いて生きたまま撮影できる方法を模索する。

2.水路構造のネットワーク構造の解析手法の確立
マイクロCTで撮影した像から、体内の空所を水路構造として抜き出し、水溝系の立体構造をネットワークとして自動で書き出すプログラムを開発する。得られた水溝系のネットワーク構造をもとに、水路の目詰まりに対する水溝系ネットワークのロバスト性や水の輸送効率をネットワーク理論の観点から定量的に評価する。

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