津守 不二夫
研究概要
プランクトンの表皮や哺乳動物の気管支表面に見られる繊毛構造は,ミクロ領域における優秀な微細駆動・送液デバイスである.しかし繊毛を模倣した構造は工学的にはまだ実用化にいたっていない.
本研究では,磁性微粒子を分散させた弾性樹脂材料(シリコーンゴム)を用い,外部磁場駆動型の人工繊毛構造を開発する.このような繊毛構造は海外において既に何点か報告されているが,これらは,全ての繊毛が外部磁場にならって同一の動きをするものである.しかし自然界の生体において観察される繊毛は「風になびく稲穂」のように,一本一本の繊毛が異なる位相で繰り返し運動を行うことにより,繊毛集合の全体が波のような挙動を示す.これはメタクロナール波と呼ばれ,解析的な研究により,高い送液性能につながっていることが知られている.そこで,本研究ではこのメタクロナール波を再現することを狙う.
27年度の実施計画
本研究では磁性粒子を分散させたシリコーンゴム材料を用い構造を作製する.特徴としては,外部磁場による変形挙動を変化させるために構造内部で磁性粒子を鎖状に配向させた構造を作製することである.これにより,同一外部磁場のもとにおいても,変形挙動を変化させることができる.このような異なる異方性を持つ繊毛を多数配置した人工繊毛表面を構築し,メタクロナール波を実現する.
予備実験の段階において,同一外部磁場のもとで異なる挙動を行う数mm程度の長さの個々の繊毛を作製できることは確認している.平成27年度には1
mm程度の高さの繊毛群を作る.まずは,1次元的に配列した繊毛アレイを構築し,メタクロナール波を発現することを狙う.同時に,この繊毛を液中で駆動させて送液性能を評価する.送液性能の評価にはIV(Particle
Imaging Velocimetry)を用い,繊毛付近での流れまで可視化したい.