田中 博人
研究概要
近年、ディスプレイや太陽電池など様々なデバイスがフィルム化され柔軟性を謳い始めている。ところがこれら
は曲げに対して柔軟であっても面としては伸縮しないため、実際には 3 次元曲面に沿った自由変形はできない
。一方、自然界の鳥の羽根や昆虫の翅は羽ばたき運動に耐える剛性を持ちながらも軽量で柔軟かつ伸縮可能であ
る。これはマルチスケールな「枝分かれ構造」と「しわ構造」によって局所的な曲げ変形で面としての伸縮を実
現しているからである。そこで本研究では、飛行生物の翼の「枝分かれ・しわ構造」を規範とした柔軟かつ伸縮
可能なフィルムの製作方法と設計指針を確立する。
25年度の実施計画
1.しわ構造の各種形状パターンの理論的評価:「しわ」の基本断面形状を考え、伸縮性・柔軟性・重量につい
て有限要素法数値解析を行い、各基本形状の特性を理論的に評価する。数値解析には所属研究期間が所有する商
用ソフトウェア ANSYS を用いる。
2.微細なしわ構造の製作プロセスの確立:しわフィルムの製作方法は、まず表面にしわ形状を持つモールドを作成し、その形状をフィルムに転写する。フィルムの製作方法として以下の 3 つが考えられる。①平坦な熱可塑性フィルムをしわモールドでプレス、②モールド表面に熱硬化性ポリマーをスピンコートして硬化③モールド表面にパリレンフィルムを蒸着・成膜。それぞれ一長一短があり、具体的なフィルム厚や形状に応じて使い分けていくが、フィルムの均一性や強度の点で、パリレン蒸着が最も有望である。微細なしわ形状のモールドの製作方法として以下の 3 つが考えられる。①CAD/CAM による切削、②3 D プリンタ、③MEMS フォトリソグラフィー、④エラストマー(ゴム)を用いた自己組織的なしわ形状の創出。CAD/CAM は設計した 3 次元モデルの通りに数値制御で切削できるので、複雑な形状でも製作可能であり、最も汎用性がある。ただし市販のエンドミル径は最小で 0.01 mm であり、これが解像度の限界である。近年 3D プリンタの利用が盛んであるが、紫外線硬化樹脂をステップ状に露光・硬化していくので表面に段差が残ってしまうため、本研究には利用しにくいと予想される。MEMS フォトリソグラフィーではサブミクロンスケールまでパターニングが可能であるが、任意の曲面形状の実現は難しい。エラストマーを用いた手法は、あらかじめ伸長させたエラストマー上に成膜し、その後エラストマーを元の形状に戻すと成膜されたフィルムに自然にしわが生じるという方法 、もしくはエラストマーに成膜後、エラストマーを圧縮するとしわが生じるという方法である。この手法ではエラストマーの伸縮の仕方によっては幾何学的な設計では得難い複雑で高機能な自己組織化的しわ形状が得られる可能性があり、注目される。3.機械特性の実験的評価:試作した「しわ」フィルムの引張り試験、曲げ試験、局所的荷重試験を行い、1.で得た理論値との比較を行い、目的に応じたしわ構造の設計指針を確立する。