前田 義昌
研究概要
本研究では、珪藻細胞壁(珪殻)の微細構造が生み出す栄養源の取り込み機構のメカニズムを解明し、それを規範として、物質が拡散する方向にバイアスをかけ、一定の方向に輸送することのできる微細構造を有した材料の開発に展開することを目指す。
珪藻は地球上のあらゆる水圏環境に適応し、最も繁栄した生物の一つである。その理由として、周期的な微細構造を有する珪殻が物質拡散方向を制御して、栄養源の取り込みに寄与している可能性があることが示唆されている。しかし、どのような微細構造がその機能を生み出しているかは不明である。これを解明し、模倣材料を開発することができれば、栄養輸送脳の高い細胞培養固体培地やイオン輸送効率の高いリチウムイオン電池材料など、様々な応用が期待される。
28年度の実施計画
昨年度までに、珪殻タンパク質Frustulin1をアンカー分子として用いることで、羽状目珪藻Fistulifera solarisの珪殻状に効率的に機能性ペプチドをディスプレイする方法を確立した。本手法を用いて酸化亜鉛結晶化ペプチド、金結晶化ペプチド、酸化チタン結晶化ペプチドをディスプレイさせる遺伝子組み換えベクターをそれぞれ構築し、パーティクルガン法を用いた導入を行った。酸化亜鉛結晶化ペプチド、金結晶化ペプチドをディスプレイした形質転換体の作出には既に成功し、無機結晶前駆体を混合した培地を用いた培養を開始している。そこで平成28年度においては、珪殻微細構造内部における微結晶の成長を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて解析することに注力する。結晶面の成長方向などから前駆体物質の輸送効率を評価する手法の開発に取り組む。そのための超薄切片作成技術を修得し、高分解能TEMによる観察を実施する予定である。なお、酸化亜鉛結晶化ペプチド発現形質転換体の作出も引き続き行う予定である。