平成28年度 公募研究

安井 隆雄

研究概要

2013年にクランガーゼミというセミの翅は、物理的な構造だけで細菌を殺すことが可能であるということが発見された。本研究では、(1)クランガーゼミの翅がナノメートルスケールでどのように機能しているのかを解明し、(2)このセミの翅の物理的防御という特性を再現するナノデバイスを創製する。本研究が当該領域の推進に貢献できる点は、セミの翅の物理的防御機構を解明することによって、“生物のユニークな技術体系”を明らかにするとともに、セミの翅の物理的防御機構を模倣することによって生物多様性に学ぶ材料・デバイスの戦略的設計・作製を実現することにある。また、本提案にて創製する新規ナノデバイスは、バスの手すりのような公共の場で病原体のすみかになっている場所の表面素材への応用や、医療現場での滅菌素材の開発等、新産業技術・革新医療技術の創出に極めて大きな波及効果をもたらす。

28年度の実施計画

平成28年度は、セミの翅の物理的防御機構を有する新規ナノデバイスの創製を行う。開発するナノデバイスは、バスの手すり等の公共の場所での使用を想定しているため、新規ナノデバイスの基板素材には、粘着性を有する素材であるシリコーンゴムのポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いる。申請者は既に、PDMS上へナノワイヤ構造体を成長させる技術を開発してきた。しかし、本デバイスでは、ナノワイヤ構造体がPDMS上にのっている状態であり、繰り返しの使用や長期間の使用には耐えることができない。

そこで本年度では、ナノワイヤ構造体をPDMSに埋め込むことで、ナノワイヤとPDMSの接合力を増加させ、繰り返しの使用や長期間の使用に耐えるナノデバイスを開発することを目的とする。この埋め込み型ナノワイヤ構造体は、シリコンやガラス基板等に作製したナノワイヤ構造体にPDMSを流し込み、PDMSを剥離することで、PDMSにナノワイヤを埋め込み、そこからナノワイヤ構造体を成長させることで作製する。申請者は予備研究成果として、乱雑な配置パターンのナノワイヤ構造体を上述の手法にて、PDMSに埋め込むことに成功している。本研究課題では、前年度に体系化したナノワイヤ構造体の物理的・化学的パラメータを基に、セミの翅の物理的防御機構を模倣する組み合わせのナノワイヤ構造体をPDMSに埋め込み、薄いシート状のデバイスを作製することを達成する。

このデバイスを用いて、細菌破砕の処理能力、時間、正確性などを検討し、性能評価を行う。その際には、細菌の膜の硬さを1つのパラメータとして扱う。細菌の膜の硬さは細菌にマイクロ波を照射することで評価し、どの組み合わせのナノワイヤがどの程度の硬さの細菌に有効であるかを体系化する。また、細菌の大きさももう1つのパラメータとして扱う。最終的には、ナノワイヤ構造体の物理的・化学的パラメータ、細菌の膜の硬さ・大きさのパラメータを体系化し、狙った細菌のみを破砕することが可能な接着性シート状ナノデバイスの創製を行う。

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