山本 拓矢
研究概要
これまでに申請者は、環状高分子から成るミセルが、対応する直鎖状高分子ミセルよりも構造安定性が遙かに優れていることを見出した。本提案では、合成高分子を利用し好熱菌細胞膜の単純化モデル(ベシクル)を構築する。それを利用し、生体という複雑系を用いた実験では困難な環状構造が熱安定性へ寄与するメカニズムを解き明かす。さらに、そのメカニズムと実験を通して得られる種々の知見に基づき、環状高分子が形成する自己組織化構造を新奇高分子機能材料の開発へと展開する。これは、今までにない高分子トポロジーと自己組織化の融合という新しいコンセプトを材料設計に導入するものである。すなわち、本研究は生命科学、高分子科学、超分子化学の複合による学際的分野の設立を目指し、新奇機能材料の創出へつなげるものである。
28年度の実施計画
様々な環状ブロック共重合体の自己組織化によりベシクルの構築を目指す。二分子膜が球状に閉じた構造であるベシクルは、単細胞生物である好熱菌の細胞膜構造の理想的なモデルと考えられる。これまでに直鎖状PS-PEO-PSおよびその環状化したものを合成し、自己組織化を行ったところ、ベシクル構造の形成を確認した。今後、セグメントを変化させた環状高分子を用いて選択的なベシクルの構築を目指す。さらに、そのベシクルのNMR緩和時間測定および水和状態の調査を行い、環状脂質分子が好熱菌細胞に付与する熱安定性の秘密を解明する。