平成28年度 公募研究

椿 玲未

研究概要

海綿動物は体内に張り巡らされた水路(水溝系)の中に水を取り込み、その中に含まれる有機物を濾しとって食べるという特殊な摂食様式を持つ。海綿動物(以下「カイメン」)の水溝系は非常に複雑な立体構造を持つため計測や解析が難しく、詳細な構造についての知見は未だ乏しい。しかしカイメンは、水溝系以外に栄養やガスを体内に配分する効率的なシステムを持っていないことから、その構造と機能の解明は、人工的な水輸送システムを設計する上でも重要な示唆をもたらすと期待される。

そこで本研究では、カイメンの水溝系を水輸送システムと捉え、生物学にとどまらず物理学的、数学的なアプローチからもカイメンの水溝系の構造と機能を明らかにすることを目的とする。

28年度の実施計画

平成27年度には計画通りマイクロCTで撮像した像の、体内の空所を水路構造として抜き出し、その立体構造をネットワークとして自動で書き出すプログラムを開発することができたので、得られた水溝系のネットワーク構造をもとに、水路の目詰まりに対する水溝系ネットワークのロバスト性や水の輸送効率をネットワーク理論の観点から定量的に評価する。

さらに、ネットワーク機能の解明のためには、ネットワークのどこにどのくらいの水を輸送する能力があるかを明らかにする必要がある。カイメンは鞭毛運動によって水を輸送するので、鞭毛運動による水の輸送能力を下記の方法で明らかにする。

[材料] 一部のカイメンは、乾燥や低温を乗り越えるための芽球を呼ばれる休眠卵を持ち、発生初期の芽球は比較的単純な水路構造を作る。そこで本研究では、カワカイメンEphydatia fulvatilisの芽球を材料として、鞭毛運動の機能を明らかにする。
・単一襟細胞の観察
カイメンの襟細胞を単離し、高速度カメラで撮影し、運動を解析する。
・生体内での襟細胞室の観察
芽球をスライドグラスとカバーグラスの数十μmの隙間に二次元的に成長させる(サンドウィッチ培養法)。

[水の動きの測定] 水中に蛍光粒子を懸濁させ、その挙動から水の動きを計測するPIV (Particle Imaging Velocimetry)法を用いて鞭毛運動による水の挙動を調べる。

[鞭毛運動の解析] 単一の襟細胞および襟細胞室内の鞭毛運動をハイスピードカメラで撮影し、鞭毛そのものの運動解析と鞭毛周辺水流の数値流体解析を行う。

[水輸送能力の推定] PIV法による水流測定結果と鞭毛周辺の数値流体解析の結果を合わせて、単一鞭毛および襟細胞全体での水輸送能力を推定する。

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